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インタビュー

橋渡しインタビュー

再審法「改悪」許さぬ 正念場、鴨志田祐美弁護士

2026年5月2日

※文化時報2026年4月3日号の掲載記事です。

 2021年8月から約4年半にわたり、本紙でコラム「かも弁護士のヒューマニズム宣言」を連載してきた鴨志田祐美弁護士(京都弁護士会)が、文化時報のインタビューに応じた。コラムは100回で終わったが、刑事裁判のやり直しに関する刑事訴訟法の再審規定(再審法)改正に向け、闘いは続いている。冤罪(えんざい)を防ぐために、私たちにできることは何か。今後の焦点と宗教者に期待される役割を尋ねた。(主筆 小野木康雄)

議員立法を阻む法制審

――再審法改正を巡り、法相の諮問機関である法制審議会が要綱案を答申しました。9カ月という異例の早さでの取りまとめでしたが、どう見ていますか。

 「超党派の議員連盟が積み上げてきた質の高い議員立法案をつぶすための、あまりに不当で拙速な議論でした。通常、法制審は2〜3年かけて慎重に議論するものですが、今回は法制審の部会が昨年11月から月3回という異常なペースで進められました。前回の議事録が出来上がらないうちに次の会議が行われる。議論が積み上がらないのです」

 「法務省の思惑は明らかでした。幅広い証拠開示のルール化や検察官の不服申し立て(抗告)禁止を盛り込んだ議員立法案が成立する前に、自分たちがコントロールできる内容で『閣法』を出し、先手を打とうとしたのです」

 《閣法とは、内閣が国会に提出する法案のこと。これに対し、国会議員が作成・提出するものを議員立法と呼ぶ。再審法改正を巡っては、この二つが並行する「ダブルトラック」が続いた末、先の衆院解散により議員立法が廃案となった》

――法制審部会には鴨志田弁護士も委員として参加し、法務省の姿勢を批判してきました。

 「要綱案は、肝心の検察官抗告の禁止が見送られたばかりか、裁判所が再審請求を早期に棄却しやすくする『調査手続』の新設が盛り込まれるなど、救済のハードルを上げる『改悪』と言わざるを得ない内容でした」

(画像:法務省の対応を鋭く批判する鴨志田弁護士)
法務省の対応を鋭く批判する鴨志田弁護士

 「2月2日の部会で要綱案に対する採決が行われました。結果は賛成10、反対3。反対したのは私を含む日弁連推薦の委員3人だけでした」

 「しかし、その後の総会で異例なことが起きました。17人中4人が反対し、1人が棄権したのです。反対に回ったのは日弁連だけでなく、主婦連合会の会長や報道関係者、憲法学者といった有識者委員たちでした。刑事司法の専門家ではない人々が『この内容では冤罪被害者を救えない』と、明確にノーを突き付けた。この意義は極めて大きいです」

日野町事件の「天の配剤」

――法務省の巻き返しにより事態が膠着(こうちゃく)する中、2月25日に大きな出来事がありました。

 「はい。国会内で日弁連が行った院内集会が、大きな転換点となりました。私が法制審案と議員立法案の違いについて講演している最中に、日野町事件=用語解説=の再審開始決定が最高裁によって確定したという速報が入ったのです」

 「まさに『天の配剤』でした。会場は騒然となり、被告人とされた故・阪原弘さんの長男、弘次さんは『父はすでに獄死してしまった。母は毎日ポストをのぞいて吉報を待ち続けていた』と涙ながらに語りました。このリアルな声に、その場にいた多くの国会議員が心を動かされました。翌朝の議連総会は法務省への『総攻撃』のような場になりました」

――日野町事件は検察官抗告によって救済が遅れました。いわゆる袴田事件=用語解説=と同じ構図ですね。

 「そうです。証拠を隠したまま不服を申し立て、無実の人の命を削る。この『検察官抗告の禁止』こそが、勝ち取らねばならない最優先目標です。どこまで議員立法案の中身を閣法に盛り込めるか。今がまさに最大にして最後の正念場なのです」

「人生被害」の傍らに立つ

――冤罪問題に宗教者が関わる意義をどうお考えですか。

 「冤罪は単なる『誤判』ではありません。その人の人生そのものを根こそぎ奪う『人生被害』です。死刑の恐怖や出口の見えない孤独の中で、袴田巖さんも福井女子中学生殺人事件で再審無罪が確定した前川彰司さんも、カトリックの信仰を心のよりどころとして生きてこられました」

 「宗教者は、理不尽な苦難にある人の傍らに立ち、共に祈り、その尊厳を守る存在です。署名運動一つをとっても、お寺や教会という地域コミュニティーが動けば、大きな世論となり、政治を動かす力になります」

(アイキャッチ兼用画像:市民団体が署名運動を呼びかける集会で講演する鴨志田弁護士(右)=2月20日、東京都千代田区のカトリック麹町聖イグナチオ教会ヨセフホール)
講演する鴨志田弁護士(右)=2月20日、東京都千代田区のカトリック麹町聖イグナチオ教会ヨセフホール

――連載「かも弁護士のヒューマニズム宣言」は終わりましたが、読者へのメッセージをお願いします。

 「京都という土地で、名刹(めいさつ)や古刹を訪ね歩き、歴史の厚みに触れる中で、私自身が最も癒やされてきました。宗教に関わることは、心を豊かにできる場所に出会うことなのだと実感しました」

 「このコラムを通じて、難解な刑事司法の問題を『自分事』として捉えてくださる読者が増えたことは、大きな財産です。私はこれからも別の形で必ず帰ってきます。『I shall return』。冤罪被害者が報われる春を勝ち取り、皆さんと再会したいと思います」

【用語解説】日野町事件

 滋賀県日野町で1984(昭和59)年12月、酒店経営の女性が殺害され、金庫が奪われた事件。88年に阪原弘さんが強盗殺人容疑で逮捕、起訴された。阪原さんは無罪を主張したが、大津地裁は無期懲役を言い渡し、2000(平成12)年に確定した。11年に阪原さんが病死後、遺族が申し立てた第2次再審請求で検察側が新証拠を開示し、有罪の根拠と矛盾する事実が明らかになった。18年に大津地裁が再審開始を決定し、26年2月に最高裁が検察側の特別抗告を棄却して、再審開始が決まった。

【用語解説】袴田事件

 1966(昭和41)年に静岡県で起きた一家4人殺害事件。強盗殺人罪などで起訴された袴田巖さんは公判で無罪を訴えたが、80年に最高裁で死刑が確定した。再審請求を受け、2014(平成26)年3月に静岡地裁が再審開始を決定。袴田さんは釈放された。
 検察側の即時抗告によって東京高裁が決定を取り消したものの、最高裁が差し戻し。東京高裁は23年3月、捜査機関が証拠を捏造(ねつぞう)した可能性が「極めて高い」として、改めて再審開始決定を出した。再審公判で静岡地裁は24年9月、袴田さんに無罪を言い渡し、検察側は控訴せず、10月に無罪が確定した。

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