2026年5月13日
障害者施設とは思えないガラス張りのモダンな事業所が、横浜市中区にある。2024年11月にオープンした就労継続支援B型事業所=用語解説=「ラボメン」だ。代表の松橋健太さんは「売れる物を作らなければ意味がない」と話し、従来の福祉の枠組みを超えた「稼げる人材」の育成に心血を注いでいる。(飯塚まりな)

事業所のある中区は行政や観光、商業の中心地。利用者は電車や徒歩で自力通所し、昼食は外食や弁当を持参している。建物は元飲食店をリフォームし、外からも室内の様子が見えるよう、ガラス張りにしている。
ラボメンでは、一般的な事業所が行う軽作業や内職は一切行わない。
利用者は計14人で、「クリエイター」と「販促組」に分かれている。クリエイターは絵画や設計模型、動画編集、ハンドメイド雑貨などの得意分野を生かして商品を開発する。販促組は事業所のスマートフォンを使い、会員制交流サイト(SNS)を駆使してクリエイターの商品を情報発信。商品が売れれば梱包・発送なども行い、裏方に徹する。
商品が売れた場合、クリエイターの取り分が7割、画材費・梱包代などが2割、販促組には1割が還元される仕組みだ。
市場価値を徹底追求する松橋さんは「好きなものを自由に作るのではなく、売れ筋を見極めるように」と、口を酸っぱくして指導する。

体調不良や気分の浮き沈みで作業が行えない利用者から「裏で休ませてほしい」と相談されたときは、その場で帰宅を促す。一般的にはこの時点で、相談員が膝を突き合わせて話を聞く光景が見られるが、ラボメンの支援員は情緒的な深追いはしない。
「体調が悪いのなら、通所せずに休む。なぜ休むのかをきちんと電話で説明する。当たり前のことができなければ、自立は到底難しいです」と松橋さんは率直に語る。
背景にあるのは、利用者の「生活保護から脱したい」「一人暮らしをしたい」という切実な願いだ。商品が売れた瞬間に湧き上がる意欲こそが、自立への原動力になると確信している。
見学に訪れる保護者に事業内容を説明すると、「うちの子にはまだ早い」とためらう人も多い。「まだ早いのなら、いつやるのか」。松橋さんは歯がゆい気持ちになることもあるという。
厳しさの裏には、松橋さん自身の「父親としての思い」がある。
シングルファーザーとして長年、自閉症の長男と次男を育ててきた。子どもの自立を一番に考えてたどり着いた答えが、この「厳しさと優しさ」の両立だった。

次男の千惺さんは、事業所のクリエイターとして活躍している。ユニークな発想で、カラフルな色合いと独自のキャラクターたちを描いており、見る者を楽しませる。松橋さんは子どもの頃から絵が好きだった千惺さんの将来を考え、ラボメンを立ち上げたのだという。
「ありがたいことに、千惺の作品は安定して売れています。私も口を挟むことが減り、本人に任せています」

千惺さんは、顔に感情が出にくい。「できた」「買った」などの簡単な単語は発するが、自らの気持ちをうまく伝えられない特性がある。
「うまく話せないことは理解できるので、こちらがいら立つことはない。でも仕事として引き受ける以上、妥協は許しません。売り上げは本人が自由に使っていて、売れるほど自分の好きなものが買えることを本人なりに理解しています」
現在、軽度知的障害の診断は細分化され、対象者は年々増加傾向にある。少子高齢化で納税者が減少する中、松橋さんは「一人でも多くの障害者が働き、自らが納税できるようになるまでの支援をすることが自分の役割」と見据える。
今年中には横浜市内に二つ目の事業所を立ち上げる予定という松橋さん。安易な同情を寄せつけず、一人一人の可能性と真っ向から向き合うラボメンの取り組みは、これからの障害者福祉に一石を投じる「異彩な存在」として注目を集めそうだ。
【用語解説】就労継続支援B型事業所
一般企業で働くことが難しい障害者が、軽作業などを通じた就労の機会や訓練を受けられる福祉事業所。障害者総合支援法に基づいている。工賃が支払われるが、雇用契約を結ばないため、最低賃金は適用されない。