2026年5月30日
「カエルには、僕の知らない世界がいっぱいある」。片野真洸(まひろ)さん(18)=埼玉県久喜市=の瞳は、輝きに満ちている。指定難病=用語解説=「エーラス・ダンロス症候群」(EDS)を抱え、外出時は電動車いすに乗りながら、日本に生息するカエルについての情報を発信。4月に日本工業大学に進学した。飽くなき探究心が、不自由な体を超えて羽ばたいている。(飯塚まりな)
EDSは、皮膚・関節・血管などの結合組織がもろくなる遺伝性疾患。片野さんは運動機能障害で全身の力強い動きや、すばやい動きは苦手だ。

小中高と特別支援学校で過ごした片野さんにとって、学校生活は必ずしも平坦(へいたん)なものではなかった。多様な障害のある同級生たちと過ごす中、周囲の大人たちから年齢にそぐわない「子ども扱い」を受けたり、過剰に褒められたりすることに、常に違和感を抱いていたという。
そんな片野さんを支えたのが、カエル。10歳のときに難病の子どもたちが集うキャンプに参加し、1人で両手いっぱいにカエルを捕まえたことがきっかけだった。
14歳のときに家族の反対を押し切り、カエルの飼育を始めた。そこでカエルの足の指が4本ということに気付いた。「カエルには、僕の知らない世界がいっぱいある」と、探究心に火が付いた。

骨格を知るために、冷凍したウシガエルを三日三晩かけて解剖したこともある。腐敗を止めるために氷を乗せ、心臓や腸を一つ一つ取り出して観察した。「グロテスクでありながら、美しさも感じた」と振り返る。
顕微鏡を買って独自に研究を続けていたが、限界を感じて複数の大学に問い合わせ、両生類の研究室を訪問。教授たちと意見交換し、進路を考えたという。
昨年10月、特別支援学校の高等部3年だった片野さんは、自身の研究成果を「かるた」に結実させた。その名も「かえるた」。独学でマスターしたデザインソフトを駆使し、四苦八苦しながら絵札を描いた力作だ。
読み札にはカエルの特徴と説明が書かれている。「図鑑より詳しく、論文よりは易しい」をテーマに、子どもから研究者まで楽しめる3段階のクイズ形式を採用。大学の研究室を訪ねた際に教授たちを驚かせた知識が、至る所に散りばめられた。
アーティスト名「あずけろ」として制作したこのかるたは、印刷会社の昇文堂(東京都千代田区)からリリースされた。この経験は、1人で研究を続けてきた片野さんにとって、「やってきたことは無駄ではなかった」という大きな自信につながった。
また、慶應義塾大学の総合型選抜(AO入試)を受験し、提出課題ではカエルを研究する片野さん自身の〝生態〟をポップにまとめた。最終結果は不合格だったが、一次審査は通り、面接にこぎ着けたことも誇りになった。

この春、片野さんは日本工業大学に進学。化学と工学を専攻している。「将来は大学院へ進学して、研究者として活躍したい」と話す。
大学には、電動車いすに乗って電車とバスで通学。体調管理や学内での合理的配慮=用語解説=の申請など、難病ゆえの課題も多い。
「治療法がない病気なので、周りの人たちに協力してもらわなければならないこともある。頼れる人をつくっておく必要があります」
しかし、それ以上に「日常のたわいもない会話を楽しめる仲間ができること」を、何よりも喜んでいるという。
自身と同じ環境にある人々に対し、片野さんはこうアドバイスを送る。
「いつか出会う将来の友達に向けて、自分自身もいろいろなことに興味を持って、外へ出ていくことが大事だと思います」
受け身の姿勢ではなく、自ら話題を提供し、対等な関係を築くための準備を怠らない。その前向きな姿勢は、片野さんがカエルから教わった「生きる力」そのものかもしれない。

【用語解説】難病
発病の機構が明らかでない▽治療方法が確立していない▽希少な疾病▽長期の療養が必要―という四つの要件を満たす疾患。厚生労働省は、難病の中でも、患者数が一定数を超えないことや、客観的な診断基準が成立しているなどの条件を満たす疾患を「指定難病」としており、重症患者には医療費を助成している。2025年4月1日時点で、潰瘍性大腸炎やパーキンソン病など348疾病が指定難病となっている。
【用語解説】合理的配慮
障害者の人権と自由が他者と平等に守られるよう、一人一人に対応して必要かつ適切な変更・調整を行い、困難を取り除くこと。障害者からバリアフリーを巡る対応を求められた場合、事業者は負担が重すぎない範囲で応じることが求められる。2011(平成23)年の改正障害者基本法に初めて盛り込まれ、21年の改正障害者差別解消法で全事業者に義務付けられた。