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インタビュー

橋渡しインタビュー

「明日戦争がはじまる」の問いかけ 宮尾節子さん

2026年7月1日 | 2026年7月2日更新

 現代人の日常を、戦争に例えた詩がある。埼玉県飯能市の詩人、宮尾節子さんの「明日戦争がはじまる」だ。2014(平成26)年に会員制交流サイト(SNS)で爆発的な反響を呼び、国会でも引用されたこの現代詩は、昨春から中学3年の国語教科書(三省堂)に採用されている。言葉がそぎ落とされた時代に、詩は何を照らすのか。(飯塚まりな)

少女時代の木登りに原点

 最新詩集『恋国(こいこく)』で第54回壺井繁治賞を受賞した宮尾さん。白髪のロングヘアにサングラス姿で現れると、穏やかな声で語り始めた。

 

詩集『恋国』を手に笑顔を見せる宮尾節子さん
詩集『恋国』を手に笑顔を見せる宮尾節子さん

 高知県生まれ。人見知りだった少女時代、木登りをすると見えてくる景色にわくわくしたのが詩作の原点。それからは自分の思いと言葉を詩につづった。

 成人になってからは、京都や東京で暮らした。リズムに乗せて詩や言葉を朗読する「ポエトリーリーディング」が1970年代に流行すると、宮尾さんもマイクを手に自作の詩を朗読した。

 結婚・出産後も詩を書き続け、25年前に息子の進学を機に埼玉県へ移住。自然の多いまちを自転車で駆け巡り、地域に溶け込んでいった。

 現在は都内や地方の本屋などに出向き、音楽仲間と共に詩を朗読している。反戦や戦争だけがテーマではなく、日常の気付き、風景、過去に飼っていた犬との思い出など、生活で感じた全てのことが題材になっている。

 

異物包み込み「真珠」に

 詩作の過程を「真珠貝」にたとえる。

 貝の中に異物が入り込むと、粘膜がそれを何層にも包み込み、やがて丸く光り輝く真珠となる。外からやって来る怒りや悲しみという異物を自分の言葉で包み込み、自らの身体の一部として昇華させていく。「わたしの詩は怒りではなく、いのちの悲しみや喜びを表現するものでありたい」という詩学がある。

国会前で朗読する宮尾さん
国会前で朗読する宮尾さん

 

核のボタンを押さぬ手

 「役に立つことが、そんなに大事なのか」。効率と便利さを追い求める現代社会の危うさを、宮尾さんはある日のエレベーターでの出来事から説く。

 手が震えてボタンを押せない高齢の男性に遭遇した際、こう想像した。「これがもし核のボタンだったら、押せない手の方がいい。できることが常に素晴らしいとは限らない」

 「良かれ」と思うことが、時に他者を追い詰め、取り返しのつかない破滅を招く可能性があることを、宮尾さんの視線は鋭く射抜いている。

これまでに手がけた詩集の数々
これまでに手がけた詩集の数々

 

日常に潜む「戦場」

 教科書に掲載された詩「明日戦争がはじまる」は、2007年に制作された。爆撃や銃撃戦を描くのではなく、満員電車で他者を疎ましく思い、ネットの書き込みで心を傷つけ合う「日常」を、戦争の準備として描いた。

「明日戦争がはじまる」

まいにち
満員電車に乗って
人を人とも
思わなくなった

インターネットの
掲示板のカキコミで
心を心とも
思わなくなった

虐待死や
自殺のひんぱつに
命を命と
思わなくなった

じゅんび

ばっちりだ

戦争を戦争と
思わなくなるため
いよいよ
明日戦争がはじまる

(『宮尾節子アンソロジー 明日戦争がはじまる』より)

 すぐに世に出すことはせず、7年後、詩集を作る際に偶然引き出しを開けた際に〝発見〟したという。

 当時、集団的自衛権の行使容認などを巡って社会が揺れる中、あるSNSユーザーが「無関心でいる自分」をこの詩に重ねて発信したことで拡散した。

黄色い自転車でどこへでも行くという宮尾さん
黄色い自転車でどこへでも行くという宮尾さん

 宮尾さんは「どうぞご自由にお使いください。願わくば平和のために」と著作権を放棄したが、同時に激しいバッシングも受けた。それでも「自分の考えが正しいわけではない。押し付けるつもりもない。景色として読んでもらえたら」と、静かにほほ笑む。

 

「平和風」に生きる知恵

 宮尾さんの考える「平和」は、決して大仰なものではない。「要は『みんな仲良く』ということ。一番大切な人を大切にできたら、人々は平和に暮らせる」。一人一人への慈しみから始まる平和の連鎖が、家族や学校・会社、そして世界へとつながっていく。

 さらに「和風(わふう)」という言葉を引きながら、「日本人はお得意の和風に、平(みんな)をつけて『平和風』に生きればいい。それだけのことだと思います」と語った。

 きな臭い社会に、まずは落ち着こうと文字を残す。宮尾さんの詩は、殺伐とした現代人の心に「平和の風」を吹き込んでいる。

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