2026年7月11日
社会福祉法人ル・プリが運営する就労継続支援B型事業所=用語解説=と生活介護事業所=用語解説=の「横浜光センター」(横浜市神奈川区)が、視覚障害者の専門性を生かした点字製作で、地域の情報保障を支えている。1983(昭和58)年に当事者たちの切実な願いによって産声を上げた同センターは、さまざまな工夫をしながら、横浜市の広報誌の点字版を発行してきた。(飯塚まりな)
気配を読み、交差する日常
「通りまーす」「トイレに行きまーす」。廊下に明るい声が飛び交う。
JR横浜線東神奈川駅と京急東神奈川駅からほど近い、点字ブロックの導線が整備されたビルの一角。休憩時間を告げるチャイムが鳴ると、目の不自由な利用者たちが、手すりを頼りに声をかけながら歩く。

周囲の気配を繊細に感じ取りながら、ぶつかることなく自然に交差していく利用者たちの姿に圧倒される。支援員の阿部美奈子さんは「周囲の気配を感じとる力に驚かされる。隣に立っただけで自分の名前を呼ばれて、びっくりしたこともある」と明かす。
ル・プリは、横浜市内で福祉活動に取り組んできた三つの社会福祉法人が統合されて誕生した。横浜光センターには、10代後半~70代の視覚障害者と知的・精神障害者が計40人ほど通所している。
視覚障害者の行動は天候に左右されやすい。雨の音で周囲の状況が把握しにくくなり、傘を持つことで白杖の感覚が制限される。雪の日は路面凍結などで危険が高まる。「悪天候の日は無事に到着できるか心配になる」と職員たち。それでも利用者は困難を乗り越えて通い続けている。

広報誌づくりで地域支える
横浜光センターの仕事の柱となっているのが、横浜市の広報誌「広報よこはま」の点字版製作だ。
工程は極めて緻密。まず別室で職員が広報紙に書かれている原稿を読み上げ、音声を録音する。それを点字習得者が聞き取り、六つのキーを使って入力する。1978(昭和53)年に製造された〝年代物〟の点字製版機で、亜鉛板に一文字ずつ刻印していく。

そして製版された亜鉛板に紙を挟んでプレス機にかけると、凹凸の「文字」が紙に浮き上がる。離れて見れば白紙に見えるそのページは、市内の視覚障害者にとって、行政サービスや案内を知るための唯一無二の手段だ。
24年間通い続ける女性利用者は「広報を作ることで地域の知識が増えるのがうれしい」と語り、いつか自作の歌をドラムで奏でたいという夢を胸に、点訳作業に没頭していた。

他にもボールペンの組み立てやフェルトの小物作り、塗り絵など、作業は多岐にわたる。どのスペースも、見えなくても安全に作業できるよう整理整頓が徹底されている。
「専門性」がもたらす自立
工賃は平均3万円台で、全国のB型事業所の中では高い方の水準だ。背景には、市からの委託業務という高い公共性と専門性がある。
収入の向上は「生活の自由度」を高め、社会参加への意欲を後押しする。実際に、横浜光センターではテレビやラジオで得た情報を元に、積極的に外出する利用者も少なくないという。
一人一人の背景に寄り添う
今春、施設長に就任した鈴木右さんは、長年福祉に携わってきたが、視覚障害の現場は初めての経験だという。

「着任当初は身構える部分もあったが、利用者たちのユニークな会話や真剣な議論に触れ、新鮮な驚きを感じた」
近年は利用者の高齢化に伴う個別調整も重要な課題だ。鈴木さんは「一人一人の背景を知り、どういう思いで生活しているのか、心に寄り添っていきたい」と話している。
【用語解説】就労継続支援B型事業所
一般企業で働くことが難しい障害者が、軽作業などを通じた就労の機会や訓練を受けられる福祉事業所。障害者総合支援法に基づいている。工賃が支払われるが、雇用契約を結ばないため、最低賃金は適用されない。
【用語解説】生活介護事業所
主に昼間に入浴・排泄(はいせつ)・食事などの身体介護を行うほか、生活相談に乗ったり、創作的活動・生産活動の機会を提供したりする福祉事業所。常に介護などの支援が必要な人を対象としている。