2026年7月22日
東京都杉並区の就労継続支援B型事業所=用語解説=「杉並いずみ第二」が、羊毛フェルトを用いた高品質な雑貨制作で注目を集めている。2001(平成13)年の設立以来、ものづくりを通じた支援を続けており、昨年4月の移転を機に地域との接点を拡大。利用者たちの感性と、最新機器を駆使したプロ意識が融合し、福祉の枠を超えた「選ばれる商品」を生み出している。(飯塚まりな)
移転で見えた地域交流
国道318号沿いのビルの1階。ガラス張りの窓に展示された色鮮やかな動物たちの絵が、道行く人の足を止める。扉を開けると、カラフルでポップなキーホルダーやアクセサリーが並ぶ洗練されたショップ空間が広がっていた。

「いらっしゃいませ」。利用者の明るい声が響く。
昨年4月にここに移り、来店客との交流が増えたことで、利用者たちに「自分たちは社会の一員」という意識が自然と芽生え始めている。
飲料メーカーでの経験糧に
この「品質」を支える立役者の一人が、6年前に入職した支援員の後藤匠太さん(35)だ。
前職は飲料メーカーの工場勤務。「同じクオリティーのものを安定して作り続ける」という製造現場の視点を福祉に持ち込んだ。

後藤さんの提案で導入されたのが、3Dプリンター。羊毛フェルトという温かみのある素材に、デジタル技術で精密に作られたパーツを組み合わせることで、デザイン性と商品価値を飛躍的に高めた。
イベントでは外国人観光客が1個1800円の商品を次々と買い求める光景も見られる。障害のある人が作ったということを打ち出さなくても、商品自体が魅力的だからという理由で購入される。真の自立支援の在り方を体現している。
特性を見極め「適材適所」
作業現場は、和やかな中にも独特の熱気が漂う。
羊毛フェルトを丸める工程では、お湯と洗剤を入れたカプセルをひたすら振り続ける。1日に数個を丁寧に仕上げる人もいれば、50個以上を量産する人もいる。一人一人の特性と能力を見極める「適材適所」が、高い生産性を支えている。

利用者の一人、みさきさん(24)は高校を卒業して一般企業に就職したが、1年で退職し、杉並いずみ第二に通うようになった。「自分のアイデアが商品化されたこともあります。もっと買ってもらえるよう頑張りたい」と意気込みを語る。
専用の針を使ってパーツの整形を担当するしょうたさん(25)も、自分を認めて尊重してくれる職員や仲間に囲まれ、気兼ねなく仕事ができているという。「いずれ就業して働きたい」と将来を見据える。

「福祉だから」に甘えない
杉並いずみ第二の工賃収入の約8割は物販で賄われており、月額工賃は全国平均クラスの2万3千円前後を保っている。
商品は東京都福祉局が運営する「KURUMIRU」都庁店(東京都新宿区)と、伊勢丹立川店(同立川市)の2店舗で販売しており、オンラインショップでも購入が可能。なかなか販路拡大に人手を割けず、会員制交流サイト(SNS)の発信力にも課題はあるが、地域に愛される店とあって仕事が途切れることはない。
加えて、職員のクリエイターとしての意識が高い。
一般的に福祉の現場で制作された雑貨は、デザインやクオリティーに難があると苦戦するが、杉並いずみ第二はどんな商品が喜ばれるのかを職員たちが常に考え、一度完成したものでも徹底して改善する。これこそが、利用者に対価と誇りをもたらしている。

可能性広げる「居場所」の力
「お疲れさまでした」。作業を終えて、利用者同士で仲良く駅に向かう姿を見送りながら、後藤さんは「ここに来る時間は楽しみながら作業をして、毎日気持ちよく通所してもらいたい」と語る。
利用者の多くは、自宅と事業所を往復する日々を送り、孤立しやすい傾向にあるからだ。
40年前、障害のあるわが子の将来を考えた母親たちが立ち上げたという杉並いずみ第二。今や最新技術と手仕事が融合するクリエイターたちの「居場所」へと成長した。「かわいい」と手に取ってもらう商品を通じて、利用者の可能性はこれからも無限に広がっていく。
【用語解説】就労継続支援B型事業所
一般企業で働くことが難しい障害者が、軽作業などを通じた就労の機会や訓練を受けられる福祉事業所。障害者総合支援法に基づいている。工賃が支払われるが、雇用契約を結ばないため、最低賃金は適用されない。