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インタビュー

橋渡しインタビュー

心の境界線を越えて ワッカス・チョーラクさん

2026年8月22日

 埼玉県川口市・蕨(わらび)市を中心に、国内で暮らすクルド人は推計2000人を超える。ワッカス・チョーラクさん(44)は「国を持たない世界最大の民族」と呼ばれるクルド人の生活と尊厳を守るため、20年にわたり奔走してきた。蕨市に拠点を置く「日本クルド人協会」代表で、東京外国語大学講師を務めるワッカスさん。差別や誹謗(ひぼう)中傷にさらされながらも、「共生」を説き続ける真意に迫った。(飯塚まりな)

 日本クルド人協会はクルド人からの困りごと相談を受けるだけでなく、日本語教室やコンサート、料理教室などを地域と連携しながら行っている。

 ワッカスさんは協会の立ち上げから携わっており、大学講師歴は8年目。クルド語を教えている。トルコの高校の教員免許を持っており、教育に情熱とやりがいを感じている。

ワッカス・チョーラクさん
ワッカス・チョーラクさん

 さらにセミナー講師やコンサルティング、要人通訳やニュースの通訳などを請け負っている。今年4月までは、東京都北区でクルド料理のレストランを経営し、料理人として腕を振るっていた。

 

クルド語を奪われた少年時代

 ワッカスさんは1984年、トルコ南部で9人きょうだいの8番目として生まれた。育った地はトルコ東部だが、自らの根源は「クルディスタン」にあると語る。

 チグリス・ユーフラテス川上流に広がるこの地は、歴史的にクルド人が定住してきたが、現在も正式な国家としては認められていない。

 幼少期の記憶は、民族運動の激化と弾圧の影に縁どられている。

 小学校に入学すると、校内ではクルド語が厳禁だった。強制されたトルコ語が話せないまま、疎外感の中で学校生活を送った。4歳下の弟がクルド語で話しかけてくると、周囲の目を恐れてとっさに制止せざるを得なかった。

流暢な日本語で取材を受けた
流暢な日本語で取材を受けた

 兄が運動に関わったことで当局に監視され、家族全員で移住を繰り返した。命の危険と隣り合わせな日常が、アイデンティティーを形づくった。

 

日本での「本音と建前」

 マレーシア留学を経て、2009年に来日。知人のクルド人映画監督との縁がきっかけだった。

 当初直面したのは、異文化の厚い壁だ。「日本人の『本音と建前』が理解できず、最初の2年間は孤独だった」

 さらに悲しみが重なった。2年前、来日した母親が帰国した直後に急逝。遠い異国の地から最期に立ち会えず、葬儀への参列もかなわなかった。

 「外国人特有の寂しさ」を抱えながらも、自分を支えてくれたのは日本の友人たちとの絆だったという。

 

暴言から対話へ転じる

 クルド料理のレストランを経営していたころ、執拗(しつよう)なハラスメントに苦しめられた。店の電話に、日本人からの悪質な嫌がらせ電話が相次いだのだ。

平和記念公園を訪問したワッカスさん(左)。平和活動を続けている=広島市中区
平和記念公園を訪問したワッカスさん(左)。平和活動を続けている=広島市中区

 ある日、暴言を吐く相手にワッカスさんは問うた。「あなたはクルド人と会って、話したことがありますか」

 「ない」と答えた相手に対し、30分以上にわたり対話を試みた。最後には相手から謝罪の言葉があり、それ以降、電話は止まった。

 昨年10月には、言ってもいないことを発言しているかのように見せかけたフェイク動画が拡散される被害に遭った。専門機関による音声分析を経て、偽情報を流した人物を提訴。真実を守る闘いを続けている。

 

来日したことを肯定したい

 ネットのデマや中傷に対し、毅然(きぜん)と立ち向かうワッカスさんだが、その根底にあるのは「社会を分断したくない」という切実な願いだ。

 「ごみ出しや騒音で迷惑をかけているなら、優しく声をかけて教えてほしい。理由が分かればマナーは守る」。法律に違反すれば厳格な対処が必要だと認めつつも、言葉の壁を超え、顔を合わせたあいさつから始まるコミュニケーションこそが、トラブルを未然に防ぐと訴える。

「平和祈念像」の前で記念撮影=長崎市
「平和祈念像」の前で記念撮影=長崎市

 「日本に来てよかった。いろいろなことはあるけれど、後悔はしたくない」

 不条理な偏見や差別という解決の糸口が見えない中にあっても、日本での暮らしに意味を見いだそうとしている。

 祖国に帰れない外国人の気持ちを日本人が理解するのは難しいかもしれないが、だからといって過剰な刺激を与えることや敵意を持つことに、意味はない。

 まずは互いに穏やかに暮らすことを考える姿勢が、必要ではないだろうか。

 

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