2026年5月25日
※文化時報2026年4月10日号の掲載記事です。
浄土宗西寿寺(京都市右京区)は3月29日、「花まつりと桜の春マルシェ」を開催した。村井定心住職と黒宮海大(かいだい)副住職が「お寺を支える層を広げたい」との願いから3年前に始め、今や地域の恒例行事として定着しつつある。黒宮副住職は「地域とのつながりがあるから、お寺に来てくださる。マルシェは共生を示す指標になる」と語る。(大橋学修)
午前11時、本堂前の花御堂で黒宮副住職が釈尊の誕生をたたえる読経を始めると、集まった約60人の住民らが静かに手を合わせた。法要後には地域の氏神である福王子神社で活動する「鳴滝太鼓」のメンバーが力強い演奏を奉納した。

参道にはキッチンカーや手作りアクセサリーの露店が並び、飲食・休憩スペースとなった福寿堂では住民らがビールを片手に談笑する姿が見られた。初めて参拝したという近隣女性は「こんなに立派な阿弥陀様がおられるとは知らなかった」と驚きの声を上げた。
準備から出店者との交渉、地域へのPRなどに奔走した黒宮副住職は「来場者が次々と声を掛けてくださることが何よりの励み」と笑顔を見せた。2023年の初開催時に比べ、店舗数と参拝者数は共に倍増しており、地道な交流が確かな実を結んでいる。
「お念仏することも、法然上人の教えを学ぶことも好きで好きで仕方なかった」。黒宮副住職はそう話し、「念仏ファンが高じて出家した」と表現する。
2000(平成12)年、兵庫県川西市の一般家庭に生まれた。11年の法然上人800年大遠忌法要の参拝に誘われたのがきっかけで、総本山知恩院(京都市東山区)の雰囲気が気に入り、仏教に目覚めたという。

知恩院の信仰団体「朝参会」に勧誘されて中学2年のころからに足しげく通うようになり、高校1年で月参りに来てくれていた浄土宗僧侶に弟子入りを志願して得度した。
佛教大学に進学し、大本山くろ谷金戒光明寺(同市左京区)内の学寮「黒谷道場」で1年間を過ごした後は、知恩院で門跡付きの随身=用語解説=として過ごした。在学中に後継者を求めていた西寿寺を紹介され、大学院に進学するタイミングで西寿寺の副住職になることが決まった。
「自分の行いが正しいのかと悩むこともある一方で、聖(ひじり)であろうとするとお寺を守れないのも僧侶の世界。それを知っても、好きなことは変わらない」という。
地域に溶け込むようになったきっかけは、意外にも「居酒屋」。村井住職に頼まれたみそおでんの持ち帰りを機に通い始めた店で、地域住民と身内のような関係を築き、昨年10月には福王子神社の秋季大祭で神輿の担ぎ手も務めた。
マルシェについては「お寺が地域にどう思われているか、どういう存在なのかが目に見えて分かる。ある意味で怖いこと」と語る。理想と現実のギャップを知りつつも、地域の懐に飛び込んだ若き僧侶が、寺院の新たな形を切り開いている。
【用語解説】随身(ずいしん=仏教全般)
本山などで作務に従事しながら、法務や教えを学ぶ初心の僧侶。