2026年6月13日
※文化時報2026年5月15日号の掲載記事です。
障害のある人やひきこもりの当事者が親に面倒を見てもらえなくなる「親なきあと」を巡って、真宗出雲路派長慶寺(福井県越前市)前住職の泰圓澄(たいえんちょう)一法さん(53)が4月28日、大阪市西区の喫茶店で「親あるあいだの語らいカフェ」を出張開催した。会場は、同寺衆徒(僧侶)の橋本悠さん(33)がマスターを務める喫茶「柿の木の下」(旧喫茶リエ)。さまざまな立場の10人が集まり、思いを分かち合った。

親あるあいだの語らいカフェは、一般財団法人お寺と教会の親なきあと相談室(小野木康雄代表理事、京都市下京区)が提唱している活動。財団の支部として参画する寺院などが無理のない範囲で場を開き、当事者や家族、支援者、専門職や地域住民らが心の赴くままに語り合う。
他のお寺での語らいカフェにも参加している当事者家族の男性は「自分の心を受け止めてもらえて、お互いに支え合う。仏様が守ってくださるこのような相談室は、他にない」と話し、語らいカフェそのものに初参加という女性は「他の親の会と全然違う雰囲気でびっくりした。肩の力が抜けて、ほっとした」と語った。
社会福祉士・公認心理師でもある泰圓澄さんは、親なきあとに関する個別相談に乗ったり、長慶寺でも語らいカフェを開いたりしている。今回は橋本さんが活動に関心を持ったことから、初めて出張開催を企画した。「福祉職ではなくお坊さんの視点だけで相談に答える切り口は、素朴だけど大事。今後も続けたい」と話している。

泰圓澄さんは龍谷大学2年のころに橋本さんの父、久仁彦さん(67)と知り合った。久仁彦さんは当時、同大学の学生相談室でカウンセラーを務めており、以来、約30年の付き合いがある。
久仁彦さんは、支援する側とされる側という関係になりがちな従来のカウンセリングやコーチングの手法に限界を感じ、「円坐」という独自の手法を考案して全国で実践している。

円坐はテーマを決めず、結果を求めない語り合いの場。専門家に頼らず、出会った人々が仲間になり、交流し合うことで緩やかなコミュニティーをつくる。泰圓澄さんの自坊長慶寺で実施したこともあるという。
一方、橋本さんは高校卒業後、上京して役者になった。観客の評価が全てという厳しい世界で、面白くなければ舞台を降ろされるという現実に直面。演じるとはどういうことか、自分とは何なのかを、突き詰めて考えてきた。
24歳で役者を辞め、円坐に初めて参加したとき、「演劇的な見方と重なっている」と感じた。参加者がまるで役を脱ぐかのように、自分自身に返っていく姿を目の当たりにしたという。

「あんたの言動は僧侶みたいや」。偶然出会った新聞記者にそう言われたことで仏道を志し、昨年8月、泰圓澄さんの下で得度した。
橋本さんは、多くの観客が役者の失敗を見破る観察眼を持っているのに、現実社会でうまく使えていないと感じている。「人々が抱える息苦しさを、何とかしたい」
これからも演劇の視点を持ちながら、僧侶として歩んでいく。