2026年7月27日
※文化時報2026年6月19日号の掲載記事です。
大阪市住吉区の住宅街に小さな私設図書館「念々堂」がある。無料で誰でも活字に親しめる和みの空間だ。老若男女が幅広い知識を学び、肩書を超えて出会えるようにと、僧侶で医師の代表が立ち上げた「暮らしとともにある図書館」である。(奥山正弘)
念々堂は隣接する真宗大谷派受念寺の住職で脳神経内科医の岸上仁さん(50)が副住職だったころに発願し、2024年4月に開設した。先々代の住職が暮らしていた庫裏が老朽化し、改装が迫られていたとき、「新しいことがしてみたい」と思ったのがきっかけだったという。
内装は木のぬくもりを生かした造り。部屋の両側に大きな本棚が置かれ、中央を長テーブルが貫く。お寺や運営する老人ホームとドアでつながり、参拝者やホームの入居者も気軽に出入りできる一体的な構造になっている。

本棚には岸上さんの蔵書を中心に、寄贈本など約2千冊が並ぶ。仏教や哲学、医学関係の専門書のほか、小説やエッセー、絵本、コミックなどジャンルは幅広い。貸し出しもしている。運営は住民やホーム職員のほか、入居者がボランティアで加わり、利用者と交流することもあるという。

岸上さんは「老・病・死に関わる仕事」を求めて医師を志し、脳神経内科医になった。神経難病の治療に携わる中で、医学では解決できない患者の苦悩に直面。医学は患者の苦しみを取り除こうとするが「苦しみの中をどう生きるのか」という問いには十分に応え切れていないと自覚した。
「おまえには分からんだろう」―。全身の筋肉が動かなくなる筋萎縮性側索硬化症(ALS)の患者から言われた忘れられない言葉だ。「いったい自分は何を学んできたのか。患者さんが抱える問題が分からないのに、解決法ばかりを探していたのではないか」

大学病院で研究し、病気を知ったつもりになっていた岸上さん。自問自答を繰り返した末、患者の心境を読み取ることの大切さに気付いた。先代の父親からお寺を継ぐことを決め、大谷大学仏教学科に編入学。仏教の教えが医療現場の問題と深く関わり、生きる上の智慧を授かることを知り、同大学大学院で学びを続けた。
5月23日は念々堂で「生きることを学ぶ」をテーマに学習会が開かれた。岸上さんが冒頭、「仏教を通じて生きる大切さを学びましょう」と呼びかけ、人間が苦悩に向き合う態度について考察。図書館利用者や門徒、老人ホームの入居者らが熱心に耳を傾けた。
認知症や介護、仏教書の輪読などの学習会も開催しており、6月6日には新たに英会話教室を開催。多彩な取り組みは「人と人とのつながりを生み出し、地域にも貢献する活動」と評価され、昨年11月に個人や小さな団体がつくる図書館に贈られる「まちライブラリー」の賞にも選ばれた。

念々堂は浄土三部経の一つ『仏説無量寿経』に出てくる「出会いを大事にする言葉」(岸上さん)である「仏仏相念」から命名された。「本を通じて人と人とが世代や立場を超えて、緩やかにつながる場所になれば」。世代を超えた交流を生み、「暮らしとともにある図書館」を目指す。
開館日やイベントなどは念々堂のホームページ
https://nennendo.com/