2026年9月3日
※文化時報2026年7月28日号の掲載記事です。
刑事裁判をやり直す再審制度の見直しを盛り込んだ改正刑事訴訟法が17日、参院本会議で可決・成立した。戦後初の見直しとなり、明文化されていなかった再審の手続きに関するルールを定めた。一方で証拠開示の在り方や検察の不服申し立てなど従来の不備が改善したとは言い難く、冤罪(えんざい)被害者の早期救済にはほど遠い内容。宗教界でも関心が高まっており、早くも再改正を求める声が上がっている。(松村一雄)
1948(昭和23)年に制定された刑事訴訟法には、再審に関する具体的な手続きがほとんど定められておらず、多くは裁判官の裁量に委ねられていた。検察側が証拠開示を渋り、裁判所の再審開始決定に不服を申し立てる例も目立ち、審理長期化の温床となっていた。
今回の法改正は、再審請求審での証拠開示の義務化や検察官の不服申し立て(抗告)を「原則禁止」にすることが柱。公布から3カ月以内に順次施行され、5年後に再検討を行う。
証拠開示については、裁判所が再審請求理由との関連性や必要性を考慮して検察側に提出を命じる制度を新設した。
ただ、証拠一覧の全面開示は義務付けられておらず、今後の運用には不透明感が残る。かねて再審無罪が確定した重大事件では、再審請求後に検察が開示した証拠が決め手となってきた。無罪方向の証拠が開示されず、闇に埋もれてしまう懸念はぬぐえない。
さらに、再審手続きや準備以外で証拠を使用することが「目的外使用」に当たるとして、罰則付きで禁じられた。「被害者のプライバシーなどを守るため」とされるが、たとえ証拠が開示されたとしても、支援者や報道機関に情報提供することができなくなり、証拠の検証と無罪立証への道を狭める。何が目的外使用に当たるかの線引きもあいまいで、支援活動や報道の萎縮を招きかねない。
検察官抗告の「原則禁止」については、再審開始決定を取り消すべきだと認められる「十分な根拠がある場合」は抗告が可能となる内容。一方で検察が不服を申し立てた場合は、審理の長期化を防ぐためその理由を政府が遅滞なく公表する。検察官抗告のハードルが高くなったようにも見えるが、抜け道ができたことも確かだ。

日野町事件=用語解説=で強盗殺人罪に問われ無期懲役が確定し、服役中に死亡した阪原弘(ひろむ)さんの長男弘次さんは17日、改正法成立を受けた記者会見で、「証拠の全面開示と目的外使用の禁止を外すこと、検察官抗告の全面禁止が基本だった」と悔しさをにじませた。
いわゆる袴田事件=用語解説=で死刑確定後に再審無罪となった袴田巖さんの姉ひで子さんも「私たちの方向を向いていない。もう少しまともな改正をしてくれると思っていたので、がっかり」と肩を落とした。
日弁連再審法改正推進室室長の鴨志田祐美弁護士は「毎日のように検察の不祥事が報じられている。その検察が再審を判断する『検察おまかせ法』だ」と切り捨てた。その上で「国会議員には頑張ってくれている人もいるが、国会の良識を疑う。ここからをスタートにしなければならない」と、5年後の再検討を見据えた。
再審制度の見直しに関し、真宗大谷派の解放運動推進本部は、鴨志田弁護士を招いて学習会を開くなど、関心を寄せている。
同派は加盟している「同和問題にとりくむ宗教教団連帯会議」(同宗連)でも故・石川一雄さんが長らく無実を訴えてきた狭山事件=用語解説=を支援。昨年には同宗連を通して依頼された「再審法改正(刑事訴訟法の一部改正)を求める国会請願署名」にも協力した。
6月25日の学習会は「再審法改正の現在地と課題」をテーマに、鴨志田弁護士が現行法の問題点と課題、国会審議の経緯や進捗(しんちょく)について解説。参加者は、無実の人が長期にわたって困難な状況にあることや、冤罪(えんざい)被害者の一刻も早い救済のために再審制度の見直しが求められていることなどを学んだ。
また、超宗派の有志でつくる「死刑を止めよう」宗教者ネットワークは、再審制度の見直しを大きな目標の一つと捉えて活動。柳川朋毅代表(イエズス会社会司牧センター、東京都千代田区)は、今回の見直しについて「内容を精査すると後退や改悪と呼べる状態だ」と厳しい認識を示した。
その上で「検察組織自体が生まれ変わるべき時代に直面している。宗教者として諦めることなく、これからも活動を続け、再改正を目指して訴え続ける」と力を込めた。
【用語解説】日野町事件
滋賀県日野町で1984(昭和59)年12月、酒店経営の女性が殺害され、金庫が奪われた事件。88年に阪原弘さんが強盗殺人容疑で逮捕、起訴された。阪原さんは無罪を主張したが、大津地裁は無期懲役を言い渡し、2000(平成12)年に確定した。 11年に阪原さんが病死後、遺族が申し立てた第2次再審請求で検察側が新証拠を開示し、有罪の根拠と矛盾する事実が明らかになった。18年に大津地裁が再審開始を決定し、26年2月に最高裁が検察側の特別抗告を棄却して、再審開始が決まった。
【用語解説】袴田事件
滋賀県日野町で1984(昭和59)年12月、酒店経営の女性が殺害され、金庫が奪われた事件。88年に阪原弘さんが強盗殺人容疑で逮捕、起訴された。阪原さんは無罪を主張したが、大津地裁は無期懲役を言い渡し、2000(平成12)年に確定した。 11年に阪原さんが病死後、遺族が申し立てた第2次再審請求で検察側が新証拠を開示し、有罪の根拠と矛盾する事実が明らかになった。18年に大津地裁が再審開始を決定し、26年2月に最高裁が検察側の特別抗告を棄却して、再審開始が決まった。
【用語解説】狭山事件
1963(昭和38)年に埼玉県狭山市で起きた女子高生殺人事件。被差別部落出身の石川一雄元被告(当時24)が逮捕・起訴され、無期懲役が確定し、服役した。第3次再審請求中の2025年3月11日に石川さんは亡くなり、同17日付で審理は打ち切られた。被差別部落への見込み捜査により自白を強要された冤罪事件だったとして、現在も再審を求める運動が続いている。