2025年12月9日
※文化時報2025年7月1日号の掲載記事です。
創建は古代にさかのぼるとされる和布刈(めかり)神社(北九州市門司区)は、新たな取り組みとして神道式の葬儀「神前葬」を中心とした終活事業を展開している。さらには株式会社を設立し、終活事業のフランチャイズ(FC)展開にも乗り出した。その結果、和布刈神社の2024年度の収入は1億7千万円となり、15年間で実に34倍に成長している。

かつて全国11万社を超えていた神社の数は、現在では約8万8千社にまで減少。しかも、神主常駐神社は約2万社にすぎない。今後もこの減少傾向は続き、2050年までに3万社が消滅するとの見方もある。
神社の主な収入源は、賽銭(さいせん)、祈願、お守りの三つ。特に正月三が日に1年分の収入を得て、それを12カ月に案分して運営している神社が大半だ。しかし、それだけでは生活が成り立たず、現在では約7割の神主が兼業を余儀なくされている。
地元では歴史ある神社として知られる和布刈神社も例外ではなく、代々兼業で神職を務めてきた。第32代の高瀨和信禰宜(ねぎ)(40)が着任した09(平成21)年当時、年間収入は500万円まで落ち込んでいた。
「正月収入に依存し続ければ、やがて消滅という結末が待っている」―。そうした危機感から高瀨禰宜は、和布刈神社の改革と新しい事業に乗り出した。
14年には、日々の収入を安定させる施策として、古来行われていた、死者を海へ流す弔いの方法を現代に置き換え、「海洋散骨」として開始。これまでに3千柱を弔ってきた。

海洋散骨を行う中で、前後の終活に関する相談が多かったことから、終活にワンストップで対応できる体制を整え、24年6月から終活事業を本格的に始動した。
その中心となっているのが、「本来神社とは、人生の節目を祝い、亡くなった方を弔うといった冠婚葬祭を通して、人智を超えた概念への敬意を表す場所である」という考えから始めた「神前葬」である。

神前葬は、葬儀だけでなく、現代のニーズに合わせて一日葬と海洋散骨、永代供養(年3回の合同慰霊祭)をワンストップにしたものだ。
費用は62万円(海洋散骨は代理散骨の場合。玉串料は不要)。高瀨禰宜は「鎌倉新書の調査によれば、葬儀・お墓・お布施を含めた平均費用は284万円。神前葬は222万円も安い」と強調する。
「神前葬」は、これまでに170件を販売している。
22年、高瀨禰宜は株式会社SAISHIKIを設立した。
「神社の可能性を広げる」をビジョンに、和布刈神社の終活事業をFC展開することにした。終活の仕組みを通じて、神社消滅の問題と高齢化社会の課題を同時に解決しようという意図だ。
加盟条件は、売り上げの15%をロイヤリティーとして納めること以外、特段の条件はない。「神前葬」をFC契約する場合、海がない地域では、海洋散骨の代替として合葬墓などを用意する。

広告宣伝や営業は行っていないが、口コミなどで知られることにより、これまで神社6社が加盟。神前葬の受注状況は、「多くの神社で年間・月間の数値目標を上回っている」という。
こうした取り組みの成果として、高瀨禰宜が着任した09年度に500万円だった和布刈神社の収入は、24年度には1億7千万円に達した。このうち、約70%を海洋散骨や神前葬などの終活事業が占めている。従業員も高瀨禰宜1人から12人へと大幅に増えた。
今後の目標について高瀨禰宜は「33年には、和布刈神社の収入を2億5千万円、SAISHIKIの加盟社数を35社、年商を3億5千万円にしたい」と力強く語った。
一日葬、海洋散骨、永代供養をワンストップにした神前葬の料金は、62万円と非常に手頃だ。しかし、販売件数が170件というのはやや少ないのではないかと感じ、高瀨禰宜に尋ねてみた。
神前葬は「本人による生前契約に限定している」とのこと。その理由について次のように説明してくれた。
今の葬儀は、参列者のためのものになっており、本来悲しむべき喪主などの遺族が接待などに追われて悲しめない。

さらに、残された家族に迷惑を掛けたくないという人が増えている。生前に葬儀社を決めておかないと、遺族が慌ただしく探すことになり、感情が高ぶっているため冷静な判断が難しい。結果として、遺族に負担をかけてしまう―。
「そのため、葬儀、散骨、永代供養まで含め、さらに料金も前払いする生前契約に限定した」のだという。
この考え方には、賛否両論があるかもしれないが、「葬儀や供養は遺族のことも考えて行うべきだ」という主張は、至極まっとうなものだと感じる。
