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宗派・僧俗超えて連携 あそかビハーラ医学会詳報

2026年3月10日

※文化時報2026年2月3日号の掲載記事です。

 浄土真宗本願寺派本山本願寺(西本願寺、京都市下京区)の聞法会館で1月18日に開かれた「あそかビハーラ医学会」の第2回大会は、宗派や僧俗を超えて連携の可能性を模索する機会となった。登壇者の発言からは、医療と仏教の協働に向けた期待が端々からうかがえた。(松村一雄)

患者との情報共有重要――吉岡亮氏(三菱京都病院)

(画像:吉岡亮氏)
吉岡亮氏

 三菱京都病院(京都市西京区)で腫瘍内科・緩和ケア内科の責任者を務める吉岡亮氏は、がん患者の終末期の自律を支えるためには「予測可能な病状経過を〝見える化〟した地図」が必要で、その地図を「多職種で共有して連携のスピードを上げることが不可欠」という二つのメッセージを明確に伝えた。

 ここでいう地図とは、これから患者の日常生活動作(ADL)がどのように変化していくかという正確な情報のこと。「日本では具体的な説明がほとんどされていない。かつてはがんの病名を伝えなかったが、現在では〝第二の告知問題〟がある」との考えを示した。

 障壁となっているのが「患者を絶望させたくない」という医者の都合。しかし、事実を隠しても病気の進行は止まらない。「患者はあとどれくらい生きられるかよりも、これから先、体がどの程度動かなくなるのかを知りたがっている」といい、医者と患者の間で、情報開示を巡る認識にギャップがあると指摘した。

 がん患者のADLは死亡3カ月前から生活に支障が出始め、1カ月前から急激に低下することが分かっている。「適切な情報提供によって、不確実な未来は『予測できる予定』に変えることができる。これから何が起こるかを理解し、準備することができれば、自律性と尊厳を保てる」と強調した。

地域拠点にお寺活用――大河内大博氏(浄土宗願生寺)

(画像:大河内大博氏)
大河内大博氏

 お寺を中心に〝いのち〟を大切にする地域社会を実現する。大河内大博氏は「地域の中で人のつながりが欠けている。地域共生社会の一つのハブとして、お寺を拠点にできないか」との問題意識を元に、自坊の浄土宗願生寺(大阪市住吉区)での実践例を紹介した。

 その中の一つとして、お年寄りや認知症当事者、家族を介護している人や障害のある子を育てている親などの居場所となっている月1回の「ごちゃまぜカフェ」の様子を取り上げた。看護師やソーシャルワーカーなどの専門職と連携しながら「社会で支えていくのが喫緊の課題」と話し、「地域の中にいる人とあるものの関係性を、普段からつないでいくことが大切」と訴えた。

 また夏休みの寺子屋で、不登校の子や医療的ケアが必要な子が同じ場に集まることで、互いに新たな成長が見られた例を挙げ、「校舎の中だと居場所はないが、地域を校舎にすれば役割が見つけられる。普段からの関わりがあれば、助け合うことができる」と強調した。

 大河内氏は「檀家離れ、墓じまい、仏壇じまいで寺が社会から必要とされていないのではないか」という危機意識から、自坊での取り組みを強化した。「拠点ができると仲間ができて、つながりができる。困った人が相談に来てくれるなどの変化があり、お寺が明るくなった」と締めくくった。

苦しみの吐露が光に――小澤竹俊氏(エンドオブライフ・ケア協会)

(画像:小澤竹俊氏)
小澤竹俊氏

 小澤竹俊氏は、救命救急センターや医療過疎地の病院を経て、31年間にわたりホスピスケアに取り組んできた。講演では「私たちは本当に苦しんでいる人の気持ちを理解できているのか」と問いかけ、現場で実践してきたコミュニケーションのコツを伝えた。

 小澤氏は、看取りの現場で学んだことは「元気なあなたに私の気持ちなんか分からない」という患者の思いだったと指摘。「私が相手を理解しようとする」のではなく、「相手が私を理解者と思う」ことが重要で、そのためには「聴くこと」が大切だと強調した。

 その上で、多くの病院では知りたい情報を尋ねるだけで患者のマイナスの気持ちを聞かないが、「この人なら安心・安全に話せる」という暇そうな雰囲気を出すことが欠かせないと話した。

 そして「患者にとっては苦しみを分かってくれる人がたった一人いるだけで、小さな光になる。苦しみを聞くことで笑顔に、穏やかになる可能性がある」と語りかけた。

 具体的には、メモを取らない▽語尾に「ね」をつける▽安心感のある態度で聞く―の三つが必要であり、間を取ること、相手の名前を入れること、会話のテーマを短く反復することも重要だと説いた。その上で、聞く際には言葉の言い換えや感情の先取り、急な質問を避けるよう求めた。

ビハーラ僧に価値あり――日伸会・後藤彰大理事長

 あそかビハーラ医学会を立ち上げた一般財団法人日伸会ビハーラ医療福祉機構(後藤彰大理事長)は2022年6月、独立型緩和ケア病棟「あそかビハーラ病院」(京都府城陽市)の事業譲渡を受けた。同病院には、浄土真宗本願寺派が母体となって運営していた当時と同様、ビハーラ僧=用語解説=が常駐しており、終末期患者の心に寄り添っている。

(画像:経営基盤を確立させることで、医療と部強の協働の在り方を追求すると語る後藤理事長)
経営基盤を確立させることで、医療と部強の協働の在り方を追求すると語る後藤理事長

 あそかビハーラ病院は浄土真宗本願寺派の関連法人が2008(平成20)年に有床診療所「あそか第2診療所」として開設した。「お坊さんのいる病院」として、「ぬくもり」と「おかげさま」をモットーに宗派が運営に関与していたが、赤字が慢性化。経営不振を理由に、日伸会に事業譲渡された。

 後藤理事長は、あそかビハーラ医学会第2回大会のあいさつで「全国でも珍しい仏教系の独立型緩和ケア病棟として、宗教・宗派に関係なく中立な立場で取り組んでいる。宗教の側面からも寄り添うという新しい形をつくる」と意気込みを語った。その上で「譲渡を受けてから、2期連続黒字を達成した」と順調な滑り出しをアピールした。

 今後は「経営の安定化を図り、人材が育っていく環境をつくることが重要だ」と強調。経営理念に基づいた人事考課制度への刷新や、在宅医療との連携強化を図る意向で、「それぞれの関係性を大事にしながら、手を取り合って連携していく」と述べた。

 また、ビハーラ僧の雇用は診療報酬に位置付けられておらず、経営面ではコストになるかもしれないが、「それ以上の価値があると実感している」と指摘。「ビハーラ僧の活用の仕方を、あそかビハーラ医学会から発信していかねばならない。多方面の知見を学ばせていただきながら、最適解を求めていきたい」と抱負を語った。

 さらに、あそかビハーラ病院と隣接する特別養護老人ホーム「ビハーラ本願寺」を中心に、ビハーラ医療福祉特区構想の実現を目指すと表明。有料老人ホームや保育園、教育施設などを整備し、「生と死を考える教育複合施設」にしたいとの希望を伝えた。

(画像アイキャッチ兼用:ビハーラ僧が常駐するあそかビハーラ病院)
ビハーラ僧が常駐するあそかビハーラ病院

 最後に「今後もビハーラ活動を実践し、医療と仏教の協働の理想の形を追求する。あそかビハーラ医学会でさまざまな知見を集約しながら、医療経営のアップデートにつなげ、患者・家族・遺族・医療従事者により多くを還元したい」と力を込めた。

【用語解説】ビハーラ僧(浄土真宗本願寺派など)

 がん患者らの悲嘆を和らげる僧侶の専門職。布教や勧誘を行わず、傾聴を通じて相手の気持ちに寄り添う。チャプレンや臨床宗教師などと役割は同じ。浄土真宗本願寺派は、1987(昭和62)年に医療・福祉と協働して生老病死の苦しみや悲しみに向き合う仏教徒の活動「ビハーラ活動」を展開しており、2017年度と19年度には「ビハーラ僧養成研修会(仮称)」を試行。計10人が修了した。

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