2025年1月30日
※文化時報2024年11月22日号の掲載記事です。
日本スピリチュアルケア学会は2、3の両日、東京大学本郷キャンパス(東京都文京区)で第17回学術大会を開催した。「よりソーシャルなスピリチュアルケア=用語解説=を目指して」をテーマに、2日間にわたって五つのシンポジウム・パネル発表と17の研究発表を実施。宗教者災害支援連絡会(宗援連)の共催で特別シンポジウムも行われ、現場で活動する宗教者・宗教学者らが被災地でのケアについて報告した。(松井里歩)
日本スピリチュアルケア学会は2007(平成19)年に設立。看護師などの医療職や宗教者をはじめ、スピリチュアルケアに関心のある人々が参加しており、会員数は約900人に上る。社会のあらゆる場面でケアを実践できるよう、認定資格の「スピリチュアルケア師」を設けている。
宗援連との特別シンポジウムは3日に開催。「全人力を磨く研究所」理事長でカトリックシスター(修道女)の髙木慶子氏、沖縄大学客員教授で高野山真言宗飛騨千光寺長老の大下大圓氏、曹洞宗普門寺(宮城県栗原市)副住職の高橋悦堂氏、大阪大学大学院教授の稲場圭信氏が登壇した。
髙木氏は、さまざまな災害で被害に遭った人々が安心できるよう長年寄り添ってきたが、天災と比べ加害者が存在する人災は、被害者と遺族の悲嘆が強いことや、加害者も含めてケアが必要なことを訴えた。
このうち、22年に北海道で起きた知床遊覧船沈没事故では、犠牲者20人の出身地が全国にわたっている上、6人の行方が分かっていないと強調。遺族から「あの冷たい海の中に、まだ子どもがいるんです」と言われた言葉に何も返せなかったと振り返り、人災におけるグリーフ(悲嘆)ケアやスピリチュアルケアの難しさを伝えた。
大下氏は、能登半島地震では東日本大震災に比べスピリチュアルケアの専門職が活動に至れていないと問題提起。被災地へはグループで向かう方が受け入れられやすいとし、ケアに携わる人同士のつながりを広げていくことを勧めた。
宗教施設の防災などをテーマにこれまでさまざまな被災地に足を運んできた稲場氏は「被災者からスピリチュアルケアという言葉やニーズは聞いたことがない」と指摘。共に汗を流しそばに居続ける「丸ごとのケア」によって、結果的に心のケアにつながると述べた。
これを受けた全体討論と質疑応答で、高橋氏は「スピリチュアルケアという枠組みは、われわれが話しているだけで、被災者らはもっと大きな枠の中にいるのではないか」と発言した。
【用語解説】スピリチュアルケア
人生の不条理や死への恐怖など、命にまつわる根源的な苦痛(スピリチュアルペイン)を和らげるケア。傾聴を基本に行う。緩和ケアなどで重視されている。