2025年1月28日
※文化時報2024年11月15日号の掲載記事です。
「闇バイト」による強盗事件が8月以降、首都圏で相次いでいる。住宅に押し入って住人に危害を加える例が後を絶たず、横浜市では男性が殺害され、千葉県市川市では女性が連れ去られて監禁された。社会不安を招いている現状に、警察が総力を挙げて対応すべきなのは当然だが、それだけでは問題が解決しないことを私たちは意識しておく必要がある。
警察には「検挙に勝る防犯なし」という金言がある。犯人を逮捕して事件を解決することが犯罪防止に最も効果があるという意味で、昔から現場の刑事たちを奮い立たせてきた。
NHKは今月5日までに15の事件で40人が逮捕されたと報じたが、大半は実行役と見張り役で、指示役の逮捕には至っていないという。これは、決して警察がふがいないからではない。
一連の事件に関わっているのは「トクリュウ」と呼ばれる集団である。「匿名・流動型犯罪グループ」の略で、身元を明かさずに会員制交流サイト(SNS)などで闇バイトを募集し、犯罪を実行させる。秘匿性の高い通信アプリを使っていることが、首謀者の特定を阻む要因となっている。
「検挙に勝る防犯なし」の金言は「悪事をすれば必ず捕まる」という心理が犯行のブレーキになることを前提にしている。捕まることが分かっていても、やむにやまれぬ事情があれば、抑止力にならない。
トクリュウは、運転免許証などを撮影した画像や履歴書を送信させ、個人情報を把握した上で、指示に従わなければ本人や家族に危害を加えると脅す。奪った現金の回収役として逮捕された女性は、2児の母親だったという報道もある。抜けたくても抜けられなかった可能性はあるだろう。
警察庁はSNSに警察幹部のメッセージ動画を投稿し、闇バイトに応募した場合でも本人や家族を確実に保護すると約束して、警察に相談するよう呼び掛けている。
これは、実行役になるような若い世代には、普段から相談できる相手がいない―ということの裏返しではないだろうか。
英国に倣って日本に孤独・孤立担当相が設けられたのは2021年、孤独・孤立対策推進法が制定されたのは23年のことである。同法に基づく国の重点計画には、犯罪をした人が地域社会で孤立することなく必要な支援を受けられるようにする取り組みも盛り込まれている。闇バイトによる強盗事件でも、直接的な犯罪抑止だけでなく、孤独・孤立を防ぐという視点が必要なのではないか。
実行役や見張り役は〝使い捨て〟にされる傾向にある。特殊詐欺では、被害金を直接回収する「受け子」やATMから引き出す「出し子」が該当する。いわゆるヤミ金融による被害が多発していた頃は、電話での取り立て役がそうだった。末端をいくら摘発しても、加担する者が次々に現れるなら、「検挙に勝る防犯なし」とは言えない。
宗教者は高齢の檀家・信者らに防犯対策を促すという重要な役割に加えて、若い世代が道を踏み外さないよう、孤独・孤立についても気を配ってほしい。