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買い物難民支えたい お寺から始める過疎対策

2025年7月8日

※文化時報2025年4月15日号の掲載記事です。

 日用品や食料品の店がマルシェのようにお寺に並び、即席の商店街が出来上がる。浄土宗西念寺(三重県伊賀市)の西野龍弥住職(44)と英美さん(41)夫婦が、四季ごとに境内で開催している「買い物お助け市」。過疎が進む地域の活性化を目標に社会貢献を模索しながら行っており、高齢者など〝買い物難民〟の生活に潤いを与えている。(佐々木雄嵩)

 伊賀市の65歳以上人口は2023年9月末時点で2万9181人。総人口に占める割合は33.9%で、全国平均(29.1%)を上回った。昨年9月末時点では34.1%とさらに上昇している。全国の地方都市と同様に進む過疎化と高齢化。西念寺がある伊賀上野城の旧城下町一帯でも、単身高齢世帯や空き家が増えているという。

 個人商店の撤退が重なり、車などの交通手段を持たない住民にとっては不便を強いられている。生活必需品を扱うのは、郊外に進出した大型店舗だけ。「子どもが帰ってきたときにしか買い物に行けない」「注文配達を利用するしかないが、味気ない」といった高齢者の声を多数聞いたことが、「お助け市」の企画につながった。

 公益財団法人浄土宗ともいき財団の助成を受け、昨年6月から開始。西野住職夫妻は「お寺という場所や地縁を生かし、地域支援の一端を担っていきたい」と張り切る。

(画像夫妻:「地元に貢献したい」と語る西野龍弥住職(右)と英美さん)
「地元に貢献したい」と語る西野龍弥住職(右)と英美さん

 3月15日に開かれた「お助け市」には、生鮮食品や保存食、衣類や雑貨などを扱う8店が軒を連ね、近隣住民ら約100人が訪れた。出店の条件は「必ず生活必需品も販売する」という1点のみ。出店料は取らず、テントやブースの設営を寺側が行う手軽さもあって、出店を希望する人は徐々に増えているそうだ。

 開催当初から有志4人で出店する「西山おばちゃんブース」は、住職夫婦の思いに協力しようと赤字覚悟で参加。同市西山地区一帯で栽培された野菜や手作り総菜などを仕入れ値よりも安く提供している。代表の福本ほづみさんは「喜んでもらえるのが何より。私たちもお客さんとの交流を楽しませてもらっている」と話した。

 帰省してきた家族と訪れた松岡良子さん(74)は「選べるのが楽しいね」と買い物かごをいっぱいにしてほほ笑んだ。娘の加奈子さん(40)は「生き生きと買い物を楽しむ母の姿がうれしい」、孫の芽さん(17)は「おばあちゃんがどんどん先に行くから大変」と笑顔を見せた。

(画像アイキャッチ兼用市:「買い物お助け市」には、楽しみにしている多くの人々が集まる)
「買い物お助け市」には、楽しみにしている多くの人々が集まる

地域活性化へ寺カフェも

 「お助け市」を楽しんだ住民らは、境内の「寺カフェ西念寺」に足を運んでよもやま話に花を咲かせていた。

 庫裏を改装した寺カフェは「法事だけがお寺じゃない。地域外の人も気軽に集える開かれたお寺でありたい」と一念発起した英美さんが昨年3月末にオープン。客層は檀信徒や近隣住民、御朱印目当ての旅行者などさまざまだ。

 メニューはコーヒーやバナナ葉茶などの飲み物に、団子やパンナコッタなどのスイーツ。伊賀焼や信楽焼の器に盛りつけ、食材は地元産というこだわりよう。障害者支援を行う事業所の生産物も積極的に取り入れた。地域経済に少しでも貢献できればとの思いからだ。

(画像カフェ:寺カフェで思い思いの時間を過ごす近隣住民ら)
寺カフェで思い思いの時間を過ごす近隣住民ら

 あえて飲み物と甘味だけの提供にした理由について英美さんは「訪れた旅行者には近隣の飲食店や観光名所を紹介している。他との差別化は図るが、自坊だけ良ければいいとは思わない。経済を循環させ、地域全体で活性化を目指したい」と話した。

 雇い入れた店員のためにも、しっかり利益を追求する。英美さんは「伊賀市は若年層が県外へ就職に出て戻らず、人が定着しにくい。寺カフェで雇用を生み、地元に貢献できれば」。西野住職は「取り組みはスタートしたばかり。認知度をさらに上げ、いずれは開催頻度と出店業者を増やしていきたい」と意気込みを語った。

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