2025年10月10日
※文化時報2025年5月13日号の掲載記事です。
株式会社鎌倉新書(東京都中央区)は、終活に関するさまざまな悩みにワンストップで相談対応する「シニアと家族の相談室」を、錦糸町マルイ(同墨田区)5階に2022年8月に開設した。25年1月決算期では、士業など専門家への紹介・成約件数がいずれも前期比150%超と大幅に増えている。

本連載で「シニアと家族の相談室」を取り上げたのは次の理由からだ。
同相談室は、葬儀顧客などの既存客ではなく、一般生活者を対象に来店式で終活をビジネスにしていこうとするもので、今まであまり例がなかった。この相談室が成功すれば、全国で650店舗以上展開されている「ほけんの窓口」のように、多店舗展開していくことも考えられるからである。
同相談室のビジネスモデルは、①終活の相談をしたい人を集客②同社が提携している士業などの専門家を紹介③成約すると専門家から紹介手数料をもらう―というもの。売り上げは、紹介手数料と、集客策の一つとして行う終活イベントに出展した専門家など提携先からの協賛金だ。
集客策としては、店舗周辺の地域住民向けに新聞折り込みチラシ(月10万枚)▽ウェブによる集客(ホームページ、メールマガジン、無料通話アプリLINEなど)▽店舗内でのセミナー(月約10回)▽相談室における個別相談会(常時)▽錦糸町マルイの上層階ホールなどでの終活イベント(年6回)―などを実施している。

その結果、25年1月期の実績は、紹介件数は1,000件を超え前期比52%増。成約件数は非公開だが、前期比53%増と大幅に増えた。なお、集客・相談件数は売り上げとリンクしていないため集計していないという。
成約件数の商品・サービス別順位は、1位は遺言書作成、2位不動産関係、3位生命保険、4位お墓関係、5位身元保証・死後事務委任、6位家系図作成、7位生前・遺品整理―で、鎌倉新書が力を入れている取り組みが比較的多くなっている。
紹介・成約件数ともに大幅に伸びた要因について、オフライン事業推進室の檜垣圭祐室長は「24年1月期は集客を重視したセミナー、イベントなどが多かったので、専門家に紹介できる件数が少なかった。25年1月期は、個別相談会を大幅に増やすとともに、単品成約で終わらせない接客を心がけるなど、紹介・成約件数を重視した施策に転換した」と説明する。


25年1月期の売上高割合は、紹介手数料6割、イベント協賛金4割だった。
では、25年1月期の紹介・成約件数や売上高そのものを、どう見ているのだろうか。檜垣室長は「家賃はもちろん、広告宣伝費、人件費もカバーする必要があるので、利益的にはまだまだ」という。
そこで今後は、オンラインでの集客・面談に力点を置く「オンライン店舗」をスタートし、紹介件数の増加と顧客年齢の若返りを図ることで、成約率を向上させていく。また、職域マーケットの開拓、イベント事業の強化・推進、「おひとりさま」支援ビジネスの推進などによって、売り上げアップを図っていく計画だ。

現段階では、来店式で多店舗展開していけるような状況ではなさそうだが、同社の清水祐孝会長は、数年前の筆者の取材に対し「終活ビジネスは、採算を取りに行くとうまくいかず、長期スパンで考えなければならない」と答えている。同社の今後の動向が注目される。

「お寺が終活に取り組むことをどう思うか」との筆者の質問に、檜垣室長は「お寺には、檀家さんという基盤があり、われわれと違って家賃、広告宣伝費、人件費の負担もないため、ビジネスチャンスは大きいと思う」と話す。
終活をビジネスとして行うのは難しいにしても、お寺が終活に取り組む必要性は増してきている。
終活に関して、最近特に大きな問題になってきているのは、身寄りのない人、「おひとりさま」の増加に伴い、孤立死や無縁仏などが増えてきていることだ。この問題については、地方自治体では「終活情報登録制度」などを導入するところが増えてきている。
また、政府も「高齢者等終身サポート事業に関するガイドライン」を公表し、事業者の問題点を是正したり、健全な事業者団体の設立を推進している。
こうしたことから、終活支援活動はさらに広がりをみせていくだろう。
身寄りのない人、「おひとりさま」がますます増えていくことは、お寺の今後のあり方にも大きくかかわることであり、これにどう対応していくかはお寺にとっても避けられない課題といえよう。