2023年3月2日
※文化時報2022年12月13日号の掲載記事です。
ブラジル南部クリチバにある浄土宗寺院、クリチバ日伯寺の本堂建立に向けた動きが本格化している。11月には主任開教使の大江田晃義氏(42)が勧募のため日本に一時帰国し、全国75カ寺を行脚した。14年前に開基したばかりの借家で運営する寺院だが、日系ブラジル人や現地の日本人のよりどころとなっており、建立を求める声は僧俗から上がっている。(主筆 小野木康雄)
浄土宗南米開教区の悲願
クリチバは南部パラナ州の州都で、人口約190万人。環境保全を重視した計画都市として知られる。連結バスやチューブ型バス停を用いた効率的な公共交通システムと徹底したリサイクル、世界保健機関(WHO)の基準の約4倍に当たる市民1人当たりの緑地面積などを実現し、「クリチバの奇跡」と称される。
また、在クリチバ日本総領事館によると、パラナ州にはブラジル第2の規模を誇る約15万人の日系人社会があるほか、製造業を中心に日本企業57社が進出しており、4100人の在留邦人が暮らしているという。
そうした中、浄土宗は南米開教区第4の拠点として、2008(平成20)年にクリチバ日伯寺を開基した。現在は3カ所目の借家だが、敷地面積1220平方メートルという広さと市街地から5キロ、空港から11キロに立地する利便性から、現在地での本堂建立を決断。法然上人の命日に当たる今年1月25日に土地を購入した。
在留邦人の交流の場に
本堂建立の機運が高まる背景にあるのが、現地の日系人と在留邦人の共感を呼ぶ地道な活動だ。ブラジル南部の念仏信仰の拠点でありながら、開教理念である「宗教、教育、福祉の三位一体」を掲げ、ブラジル社会に貢献している。
在留邦人のうち日本企業の駐在員は、一家そろって赴任してくるケースが多く、家族が現地になじめず孤立する傾向にある。このためクリチバ日伯寺は、寺院を交流の場として開放。子どもたちは治安を気にせず遊べる上に、大人たちは落ち着いて親睦を深められる。もちろん困り事があればサポートする。
一方、クリチバ日伯寺は日系人社会を支える各種団体とも交流。移民の追悼法要やお盆の先祖供養などを営んでいるほか、担い手不足に悩む団体と協力しさまざまな活動を行っている。
今年の花まつりはクリチバ市役所との共催で営み、2日間で約2万人が来場。露店が出るなど文字通りのお祭りとなったが、花御堂で甘茶をかけるブラジル人も多く見られたという。大江田氏は「仏教は、悩みや苦しみを癒やしてくれる存在として、ブラジル人からとても尊敬されている」と語る。
開山の遺志を継ぐ
本堂建立は来年の南米開教70周年の記念事業として位置付けられている。教化ホール建設や境内整備を含む総事業費を1億2千万円と見込み、うち6千万円を日本国内で集める目標だが、ロシアのウクライナ侵攻などで資材が高騰しており、困難が予想される。
このため大江田氏は全国の浄土宗寺院に勧募を呼び掛けるため、11月8日に一時帰国。12月1日に再出国するまでの24日間で、全国75カ寺を行脚した。「檀信徒のみならず、多くの人に開かれたクリチバ日伯寺を知ってほしい」と語る。
クリチバ日伯寺の開山である故・佐々木陽明2代開教総監は、本堂建立を誰よりも望みながら2019年に亡くなった。現在の佐々木良法総監は「何としてでもこの事業を成し遂げ、さらなる南米開教区の発展に精進していく」と意欲を燃やしている。
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クリチバ日伯寺本堂建立への勧募金は、浄土宗開教振興協会(☎03―3436―3351)へ。