2024年10月4日
※文化時報2024年8月2日号の掲載記事です。
年齢に基づく差別や偏見を「エイジズム」という。性差別や人種差別と変わらないこのような意識を、私たちは持っていないと言い切れるだろうか。
米大統領選で民主党のバイデン大統領が7月21日、再選を断念し、選挙戦から撤退すると表明した。共和党候補のトランプ前大統領が銃撃事件を受けて逆に勢いを増し、バイデン氏の当選は困難との見方が広がっていた。
バイデン氏は足元がもつれたり、演説中に人名を間違えたりすることが取りざたされており、とりわけ6月27日のテレビ討論会では、何度も言葉に詰まるなど精彩を欠いた。
こうした「高齢不安」が撤退に追い込まれた原因だと日本メディアは報じているが、米国メディアの認識は「認知不安」だったという。産経新聞7月12日付朝刊オピニオン面「バイデン氏の衰え 日米反応差」で、ワシントン駐在客員特派員の古森義久氏が指摘している。
古森氏は「客観的にみても高齢は認知の衰えを自動的には意味しない」と書き、米国には雇用における年齢差別禁止法があること、さらにはバイデン氏より年長の上下両院議員が活躍していることを紹介した。
たしかに11月5日の投票日時点でバイデン氏は81歳だが、トランプ氏も78歳である。何歳までなら大統領にふさわしいという年齢の線引きは、意味を持たない。リーダーの資質は、年齢と切り離して考えるべきだ。
87歳のローマ教皇フランシスコをはじめ、80代や90代で教団を率いる宗教指導者は少なくない。これが意味するところは、たとえ身体機能や記憶力が低下しても、人々の尊敬を集める心の豊かさや洞察力は、経験とともに充実していくということである。まさに年の功といえるだろう。
これを広げて考えれば、優秀な側近や顧問がいれば「認知不安」という批判も当たらないことになる。
日本では2019年6月に公布された成年後見制度=用語解説=適正化法で、187の法律の欠格条項が見直された。成年後見制度を利用している人を、特定の資格や職種、業務から一律に排除するのではなく、それぞれの能力を個別的・実質的に判断することになった。宗教法人法もこの流れに沿って改正されており、差別解消の動きはエイジズムにとどまらず、その先まで進んでいる。
一方で「老害」という言葉が、昨今は「硬直した考え方の高齢者が影響力を持ち続け、組織の活力が失われること」(『広辞苑』第7版)との意味を超え、年上世代の言動全般を非難する際に用いられているのは看過できない。
逆に、若い世代に対する「若害(じゃくがい)」という単語がネットなどで使われはじめたように、年齢を理由にした批判は世代間の分断しか生み出さないことにも留意すべきだ。
米大統領選では、バイデン氏が後継候補にハリス副大統領を推薦した。女性で黒人、アジア系という政治家の台頭は、性差別や人種差別の問題にも光を当てるだろうか。引き続き目が離せそうにない。
【用語解説】成年後見制度(せいねんこうけんせいど)
認知症や障害などで判断能力が不十分な人に代わって、財産の管理や契約事を行う人(後見人)を選ぶ制度。家庭裁判所が選ぶ法定後見制度と、判断能力のあるうちに本人があらかじめ選んでおく任意後見制度がある。