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元別荘地に「未来のお寺」 持続可能な地域社会へ

2026年1月11日

※文化時報2025年11月14日号の掲載記事です。

 自然に囲まれた元別荘地で、「未来のお寺」とうたったコミュニティーづくりが進んでいる。日蓮宗僧侶の戸井出琉(すいりゅう)さん(67)が主宰する「アトリエ琉游(りゅうゆう)舎」(栃木県矢板市)。読書会や写経教室、映画会、瞑想(めいそう)、飲み会など、誰もが集って生活を楽しむ場となっている。「かつての寺の役割を今の時代に再現し、住む人々が笑顔で過ごせるすみかを構築したい」。目標は、小さくても持続可能なまちづくりだ。(山根陽一)

連帯感と仏教の教え

 アトリエ琉游舎は、かつて別荘分譲地だった「コリーナ矢板」と呼ばれる地区にある。300世帯760人が暮らしており、住民は高齢者から若い世代までバラエティーに富んでいるが、移住者が多く各戸のつながりは乏しかった。

 戸井さんも生まれたのは近隣だが、2016(平成28)年にコリーナ矢板へ移住。このころ、庶民に寄り添い続けた日蓮聖人の生き方に影響を受けて日蓮宗僧侶となり、琉游舎を設立した。

(画像アイキャッチ兼用:老若男女が集まる琉游舎=栃木県矢板市)
老若男女が集まる琉游舎=栃木県矢板市

 大きな仏壇があって朝の勤行を日課とするが、宗教施設ではなく、檀家を持たない。連帯感を持って住み続け、子孫に伝えられるコミュニティーを住民たちと共につくろうとしている。当初は宗教という言葉が一人歩きし、警戒感を持つ人もいたが、実態が分かり始めると次第に地域になじんでいったそうだ。

 10月28日には法華経と阿弥陀経を学習する読書会が行われ、地域の高齢者数人が参加した。特に仏教に興味があるわけではないというが、自身の死を考え始める世代にとって「人生の閉じ方」は共通のテーマ。終活という形式は取らず「仏教の教えを読み、唱えることで自然と死生観は身に付く。それが楽しいと思える読書会にしたい」と戸井さんは語った。

 浄土真宗の宗祖親鸞の教えが書かれた『歎異抄』にも学ぶという。「釈尊の教えに隔たりはなく、宗派を超えて学ぶべき点は学び、皆と分かち合いたい」と戸井さん。さらに仏教書だけでなく、これまでに収集した哲学書や映画作品もライブラリーとして備えており、住民たちは図書館や公民館のように利用している。

(画像:法華経をテーマに学習した読書会=10月28日)
法華経をテーマに学習した読書会=10月28日

 一方で葬儀や供養を依頼されることも。釈尊降誕会(ごうたんえ)や盂蘭盆会(うらぼんえ)、施餓鬼会(せがきえ)などは毎年営んでおり、全ての命の安寧を願っている。

哲学科から電通、僧侶に

 戸井さんは東京大学文学部哲学科でプラトンを専攻。卒業後は広告会社の電通に入社し、多くの広告を制作した。40代を前に営業職に異動し、局長まで昇進。54歳のとき、「老後」や「余生」という生き方に嫌気がさして得度した。退職直前は会社に通いながら日蓮宗本山妙法寺(東京都杉並区)で行に励んだ。

 僧侶として生きる現在は、東京で働いているときよりも刺激が多いという。「同質のビジネスマンより地方の多様な人々の方が、付き合っていてはるかに面白い」と顔をほころばせる。

 最近力を入れているのが、コリーナ矢板の自治会組織「コリーナコミュニティ」の活動。戸井さんが会長に就き、琉游舎で培った運営力や連帯感を生かそうとしている。

 都市や地方を問わず、小さな単位での自治が難しくなっている昨今。新たな移住者が増えてきたコリーナ矢板も例外ではない。だからこそ、戸井さんはこうした組織が必要だと指摘する。

地域の足 自力で運行

 自治会組織「コリーナコミュニティ」の取り組みの一つが「共助バス」。市営バスが廃止された後に生まれ、ワゴン車を使って運行している。高校生は最寄りの駅へ、高齢者は病院へと行ける路線を築き、「足」を確保している。

(画像:地域の足として活躍する「共助バス」)
地域の足として活躍する「共助バス」

 戸井さんは「私や住民が運転手を務める『お互いさま』の小さなバス。自分のためが人のためになるという、まさに釈尊の教えを現代の社会課題に生かした取り組みだ」と話す。

 3年前に大動脈解離を起こして救急ヘリで病院に搬送され、九死に一生を得た。人は決して一人では生きられないと改めて痛感し、町全体の生活をより快適で楽しくする活動に力を注ぐ。矢板市周辺の人口は、増加傾向にあるという。

(画像キャプション不要:戸井出琉さん)

戸井出琉(とい・すいりゅう)

アトリエ琉游舎舎主、コリーナコミュニティ会長。1958(昭和33)年4月、栃木県生まれ。東京大学文学部哲学科卒業後、電通に入社。制作や営業を経て54歳で得度し、日蓮宗僧侶に。58歳のときに矢板市に移住し、さまざまな地域活動を続ける。

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