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「文化時報」コラム

〈81〉「遠い春」

2025年5月27日

※文化時報2025年3月14日号の掲載記事です。

 2月26日、この日は再審法改正を目指す超党派議員連盟が正午から国会内で総会を開催し、議員立法で今国会に再審法改正案を提出し成立を目指すとの方針と、改正案の骨子について承認することが見込まれていた。

ヒューマニズム宣言サムネイル

 私は日弁連での午前中の会議を終えて、午前11時半に議員会館に移動することになっていた。

 その時である。会議室で何げなくスマートフォンの画面を見ると、大崎事件弁護団の佐藤博史弁護士からの不在着信があった。コールバックしたところ「最高裁が特別抗告を棄却した。事務所に届いた決定書をデータ化して、これから弁護団のメーリングリストに送る」と咳き込むような声が聞こえた。大崎事件第4次再審の終焉(しゅうえん)の知らせは、このようにもたらされた。

 大崎事件は、地裁と高裁で過去に3度も再審開始の判断がされたが、最高裁で再審開始が認められたことはない。しかも第3次までの最高裁決定は小法廷の5人の裁判官の全員一致での請求棄却だった。

 ほどなくメールで届いた今回の決定は本文23ページ、これまでで一番のボリュームだった。しかし、再審を認めないという最高裁の判断が記載された部分はわずかに4ページ。それは第3次の最高裁決定をなぞっただけの薄っぺらなものだった。

 ではなぜ、全体で23ページもあるのか。それは、一人の裁判官が、13ページにわたる詳細な反対意見を書いていたからだ。

 行政法学者の宇賀克也裁判官の意見は、第4次再審の新証拠である医学鑑定や供述鑑定を「新たな知見」として高く評価しただけでなく、この事件の確定判決から累次の再審までの膨大な記録をひもとき、「共犯者」とされた男性たちが知的障害を抱えた「供述弱者」であったことや、被害者の遺体を解剖した医師が、「頸部(けいぶ)圧迫による窒息」という鑑定を後に訂正したことなどを丁寧に引用し、「有罪判決には合理的疑いが残る」と結論付けた。

 7月に定年退官を迎える宇賀裁判官は、自分以外の4人の裁判官が、この事件に真摯(しんし)に向き合おうとしないことに絶望し、次の第5次再審を審理する鹿児島地裁の裁判官たちに「再審開始決定はこのように書けばよい」とのメッセージを送ったのではないか。

 4日後、鹿児島の介護施設にいる原口アヤ子さんと面会した。

 私は宇賀意見の「再審開始決定を行うべき」という部分を指さし、「初めて最高裁の裁判官が再審開始の意見を書いてくれた。これを手掛かりに、もう一度闘いましょう」とアヤ子さんに伝えた。アヤ子さんは何度も何度もうなずいた。

 春は遠い。でも、第5次再審の決定が出るときには、再審法が改正され、再審開始決定に対する検察官の抗告が禁止されているだろう。そうすれば、すぐに鹿児島地裁でやり直しの裁判が始まる。だから、すぐに立ち上がらなければ。

【用語解説】大崎事件

 1979(昭和54)年10月、鹿児島県大崎町で男性の遺体が自宅横の牛小屋で見つかり、義姉の原口アヤ子さん(当時52)と元夫ら3人が逮捕・起訴された。原口さん以外の3人には知的障害があり、起訴内容を認めて懲役1~8年の判決が確定。原口さんは一貫して無実を訴えたが、81年に懲役10年が確定し、服役した。出所後の95年に再審請求し、第1次請求・第3次請求で計3回、再審開始が認められたものの、検察側が不服を申し立て、福岡高裁宮崎支部(第1次)と最高裁(第3次)で取り消された。2020年3月に第4次再審請求を行い、鹿児島地裁、福岡高裁宮崎支部に続いて最高裁が25年2月、請求を棄却した。

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