検索ページへ 検索ページへ
メニュー
メニュー
TOP > 『文化時報』コラム > かも弁護士のヒューマニズム宣言 > 〈87〉98歳のリスタート

読む

「文化時報」コラム

〈87〉98歳のリスタート

2025年8月26日 | 2025年8月27日更新

※文化時報2025年6月20日号の掲載記事です。

 6月15日、鹿児島県志布志市にはスコールのような激しい雨が路面を叩きつけ、道路を急流に変えていた。しかし、その悪天候をものともせず、志布志市内の介護施設前には30人を超える人々が集まっていた。45年以上無実を訴えて闘い続けている大崎事件の原口アヤ子さんの98歳の誕生日を祝うためだ。

ヒューマニズム宣言サムネイル

 地元鹿児島の弁護団メンバーや支援者さんらに交じって、遠方から訪れた3人の女性がいた。日本で初めて生きて再審無罪判決を勝ち取った女性第1号である青木惠子さん(東住吉事件)が大阪から、同じく第2号である西山美香さん(湖東記念病院事件)が滋賀から、そして静岡からは袴田巖さんの姉のひで子さんが駆け付けた。

 介護施設の部屋に通され、ベッドに横になっているアヤ子さんと対面するなり、ひで子さんは両手でアヤ子さんの両頬を撫でながら、「アヤ子さん、お誕生日おめでとう! 元気そうで何より。巖は無罪になりました。次はアヤ子さんの番ですよ!」と明るい声でアヤ子さんに語りかけた。アヤ子さんは首を起こして目を輝かせ、何度も頷(うなず)いた。

 青木さんと西山さんもそれぞれアヤ子さんとの再会を喜び合った。青木さんはピンクのパジャマやフクロウのイラストのガーゼハンカチをプレゼントした。そして、開くとワンちゃんの声が「ハッピーバースデー」を歌う音声付きのバースデーカードを聞かせると、アヤ子さんは頬を紅潮させ、声を上げて笑った。

 最後に、巖さんが愛用していた中折れ帽をアヤ子さんにプレゼントしたひで子さんが、その帽子をアヤ子さんに被(かぶ)せて、「98歳まで生きたんだもの。必ず無罪になるまで生きてちょうだい」と励ますと、アヤ子さんは目に涙を浮かべ、口を開けて、声にならない声で何かを伝えようとした。冤罪(えんざい)被害を受けた当事者や家族しか分かち合えない感情が、アヤ子さんをやさしく包んでいるようだった。

 弁護団は、第5次再審の準備を全力で進めていることを伝えた。そして私はこう付け加えた。

 「こんなに長くお待たせして、本当に申し訳ない。でも今、再審にこんなに時間がかかるのは、法や制度が原因だから、再審法を改正しようという動きが広がって、あとちょっとで法改正が実現できそうなところまで来ている。改正が実現すれば、捜査機関に隠されている証拠が開示されて、次の第5次再審請求で鹿児島地裁が再審開始を決定したら、検察官の抗告はなくなって、すぐにやり直しの裁判に進める。そうしたらアヤ子さん、法廷で一緒に無罪判決の言い渡しを聴こうね」

 それまでニコニコしていたアヤ子さんの顔が引き締まり、真剣な眼差(まなざ)しで私の言葉を噛(か)みしめていた。

 開かずの扉を開く、98歳でのリスタート。アヤ子さんの存命中に再審無罪を勝ち取ることが至上命題の大崎事件にとって、再審法改正の実現は、まさに死活問題である。

同じカテゴリの最新記事

ヒューマニズム宣言サムネイル
〈95〉四国への旅

2025年12月27日

おすすめ記事

error: コンテンツは保護されています