検索ページへ 検索ページへ
メニュー
メニュー
TOP > 『文化時報』コラム > かも弁護士のヒューマニズム宣言 > 〈98〉誰のための、何のための

読む

「文化時報」コラム

〈98〉誰のための、何のための

2026年3月3日 | 2026年3月4日更新

※文化時報2026年1月30日号の掲載記事です。

 袴田巖さんの事件をきっかけとして再審制度の見直しの機運が高まり、今年の通常国会でいよいよ法改正実現か、というところまで来た。

ヒューマニズム宣言サムネイル

 再審法改正に向けた活動に10年以上取り組んできた者として、感無量のできごとのはずである。それなのに、今の私には喜びや安堵(あんど)とは程遠い、暗澹(あんたん)たる気持ちしかない。

 もともと、再審法改正に先に着手したのは、袴田さんの事件を知り「これは人権・人道問題だ」と党派を超えて結束した国会議員たちだった。「えん罪被害者のための再審法改正を早期に実現する議員連盟」を立ち上げ、昨年6月には議員立法による再審法改正案を通常国会に提出し、衆議院で継続審議となった。しかし、秋の臨時国会でも審議入りに至らず、再び継続審議となって年越しを迎えた。

 一方、議員立法案が取りまとめられるタイミングで、これまで再審法改正に極めて消極的だった法務省が、突如再審制度の見直しを法制審議会に諮問した。

 刑事手続きに関する法案を審議する場合、法務省刑事局が「事務当局」として議事運営を管理するのだが、そのメンバーはほとんどが検察官である。刑事裁判で有罪を主張する一方当事者が、自らを規制する再審法の議論をコントロールすること自体、公正さに疑問符がつく。

 かくいう私も法制審の委員に推薦され、昨年4月からここまで16回の会議に出席してきた。議論は取りまとめの段階に入っており、第16回会議でこれまでの議論の取りまとめとして示された「試案」には、「証拠開示を幅広く認めるべき」「再審開始決定に対する検察官の不服申し立ては禁止すべき」といった、私たち日弁連の委員らの意見はほとんど採用されていなかった。

 私たちは常に、実際の再審事件で明らかになった理不尽な事実(立法事実)をもとに改正の必要性を主張したが、法務検察やこれに賛同する研究者の委員らは、「理論的整合性」「法的安定性」といった理屈を盾に、冤罪(えんざい)被害者が切望した改正項目にことごとく反対したのである。

 試案にはさらに、①証拠開示も事実取り調べもせず迅速に棄却する「調査手続」②開示証拠を第三者やマスコミに提供することを禁止する「目的外使用禁止規定」―など、これまでよりも再審のハードルを上げる「改悪」規定も盛り込まれている。

 いったい「誰のための、何のための」改正なのか。

 このような改悪を阻止するためには、議員立法による再審法改正を実現させるほかないが、突然降って湧いた衆議院の解散によって議員立法案は廃案になってしまうのだ。

 選挙後の特別国会で、即座に議員立法案を再提出し、「唯一の立法機関」である国会が、真に冤罪被害者を救済できる法改正を実現できるか。その可否は私たち国民の投票行動にかかっている。

【用語解説】大崎事件

 1979(昭和54)年10月、鹿児島県大崎町で男性の遺体が自宅横の牛小屋で見つかり、義姉の原口アヤ子さん(当時52)と元夫ら3人が逮捕・起訴された。原口さん以外の3人には知的障害があり、起訴内容を認めて懲役1~8年の判決が確定。原口さんは一貫して無実を訴えたが、81年に懲役10年が確定し、服役した。
 出所後の95年に再審請求し、第1次請求・第3次請求で計3回、再審開始が認められたものの、検察側が不服を申し立て、福岡高裁宮崎支部(第1次)と最高裁(第3次)で取り消された。2020年の第4次再審請求は最高裁が25年に棄却。26年1月8日、第5次再審請求を行った。

同じカテゴリの最新記事

ヒューマニズム宣言サムネイル
〈97〉勝負の年

2026年2月16日

ヒューマニズム宣言サムネイル
〈95〉四国への旅

2025年12月27日

おすすめ記事

error: コンテンツは保護されています