検索ページへ 検索ページへ
メニュー
メニュー
TOP > 『文化時報』コラム > かも弁護士のヒューマニズム宣言 > 〈88〉『神都の証人』

読む

「文化時報」コラム

〈88〉『神都の証人』

2025年9月11日

※文化時報2025年7月4日号の掲載記事です。

 昨年9月6日、名古屋在住の作家・大門剛明(だいもん・たけあき)さんと、京都の私の事務所で初めてお目にかかった。大門さんは龍谷大学出身、京都を舞台にしたデビュー作『雪冤(せつえん)』で第29回横溝正史ミステリ大賞を受賞した。その後も冤罪や再審をモチーフにした小説を多数発表している。

ヒューマニズム宣言サムネイル

 大門さんが私を訪ねてきたのは、裁判所で行われる再審請求の審理の場面について、実際に再審事件を手掛けている弁護士に取材したい、という理由からだった。すでに拙著『大崎事件と私~アヤ子と祐美の40年』も読了されていたが、非公開で手続きが行われる再審請求の審理の実際がなかなかイメージできず、筆が進まなくなったらしい。

 審理の実情をなるべく詳しく伝えるとともに、私は再審制度が大正時代からほぼ変わっていないことや、その制度の不備によって冤罪被害者の救済に膨大な時間とエネルギーが費やされていることについても言及した(この日は袴田巖さんの再審無罪判決が言い渡される20日前だった)。

 それから9カ月後。出版社から、7月2日刊行予定の大門さんの新作『神都の証人』の書評を書いてほしいとの依頼があり、プルーフ(見本)が送られてきた。

 なんと500ページ超の大作である。折しも、議員立法による再審法改正案が国会に提出されるか否かの攻防の真っただ中、まずはどうやってこの本を読み通す時間を確保するか、一瞬たじろいだ。しかし、ひとたびページを開けた途端、壮大なストーリーにぐいぐい引き込まれていき、あっという間に読み終えてしまった。

 本作は、戦時体制下の1943(昭和18)年に無実の罪で逮捕され、その後死刑が確定した父親と当時8歳だった娘のために立ち上がった、多数の弁護士たちと一人の検察官の、令和の現代に至るまでの83年間にわたる闘いを描いたリーガル・ミステリーである。何とかして死刑囚の冤罪を晴らしたいという主人公たちの熱い思いが世代を超えてバトンのように受け継がれていく。

 もちろんフィクションだが、作中のさまざまな場面に、現実の再審事件が直面した幾多の理不尽な実態がちりばめられている。

 捜査機関が握っていた重要な物証の存在が、事件から何十年もたってようやく明らかになったり、地裁・高裁が重ねた再審開始決定を最高裁があっさり取り消して再審請求を棄却したりするエピソードなど、私自身の怒りや絶望感が重なる。登場人物が再審法の問題や法改正の必要性について訴える場面も登場する。

 タイトルの『神都』とは伊勢神宮を擁する三重県山田(伊勢市)を指す。20年に1度の遷宮で御用材を運ぶ「木曳(きひ)き」が物語の展開に大きな役割を果たしている。「神領民」だった無実の死刑囚を救うのは、神なのか、人の営みなのか―。

 ぜひとも多くの人々に読んでいただきたい傑作である。

同じカテゴリの最新記事

ヒューマニズム宣言サムネイル
〈95〉四国への旅

2025年12月27日

おすすめ記事

error: コンテンツは保護されています