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「文化時報」コラム

〈90〉ディレクターの告白

2025年10月11日

※文化時報2025年8月1日号の掲載記事です。

 7月18日、名古屋高裁金沢支部は、福井女子中学生殺人事件の元被告人・前川彰司さんのやり直しの裁判(再審公判)で、前川さんを無罪とする判決を言い渡した。逮捕時に21歳だった若者の、無実の叫びがようやく聞き届けられたのは、彼が還暦を迎えた後だった。

ヒューマニズム宣言サムネイル

 この判決を受け、23日のNHK「クローズアップ現代」では、「〝私はやっていません〟相次ぐ『再審無罪』の衝撃」と題して、福井女子中学生殺人事件と、そこから見えてくる再審制度の課題を取り上げた。

 番組前半では、事件発生から再審無罪に至るまでの経過を丁寧に追い、警察が目撃供述をでっち上げ、検察が有力な無罪方向の証拠を隠す一方で、再審開始決定に対しては不服を申し立てて抵抗するという、目を覆いたくなるような不正義と、人生のかけがえのない時間を奪われた前川さんの苦悩を鮮烈に描き出していた。

 「クローズアップ現代」は平日夜7時半という、多くの視聴者の目に留まる時間帯に放映されるNHKの看板番組である。まだ冤罪(えんざい)や再審の問題を良く知らないであろう多くの視聴者の心を揺さぶったという意味でも、素晴らしい内容だったと思う。

 一方で、福井事件の教訓を生かし、冤罪被害者を迅速に救済するための再審改正の問題については、言葉足らずの感が否めなかった。

 番組では日弁連の意見を「鴨志田さんたちの意見」として紹介し、法制審の検察官委員の発言や、元検事へのヒアリングでこれに対する消極意見が出たという対立の構図を示した。

 しかし、再審法改正を巡っては、超党派による議員立法が先行しているのに、法務省のコントロール下にある法制審が議連の動きに待ったをかけるかのような形で再審制度の見直しを議論する「ダブルトラック」の状態になっているという現状を、30分の尺で伝えるのは難しかったようだ。

 番組終了後、ディレクターに送ったお礼メールで、上記の意見を率直に伝えたところ、すぐに以下のような返信が届いた。

 「前川さんが証拠隠しや抗告により、いかに理不尽な39年を強いられてきたのか。放送後には、『検察に任せておくだけではいけない』という声が多く寄せられました」

 「一方で、法改正に関するパートについては、力不足を痛感しております。議員立法こそが冤罪被害者を救う手段であり、法制審ではそれが難しいという点を明確に伝えたかったと、悔しさが残っています」

 「再審制度の歴史的経緯や、これまでの国の議論の過程など、構造的な問題にしっかりと光を当てることで、より本質的な報道ができると感じております」

 メールから彼の実直で真摯な姿勢が感じられて、とてもうれしかった。

 NHKはこれからも、継続的にこの問題に取り組んでくれるに違いない、そう確信させてくれた「ディレクターの告白」だった。

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