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「文化時報」コラム

㉜新しい年に寄せて

2023年5月16日

※文化時報2023年1月13日号の掲載記事です。

 2023年への年越しを、私は初めて京都の自宅で迎えた。よし、京都の住民として初日の出を拝もう、と決意した私は、朝6時前に家を出て、徒歩20分の伏見稲荷大社(京都市伏見区)に向かった。夜明け前の刺すような寒さの中、足早に神殿に向かうと、すでにかなりの数の初詣の参拝者でにぎわっている。実に3年ぶりの、行動制限のないお正月であることを実感した。

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 さまざまな交通手段を利用して、遠方から大勢の参拝者が訪れる著名な寺社が、自宅から徒歩圏内にあることに、ちょっとした優越感を覚える。その優越感を味わうのは、10代を過ごした鎌倉に住んでいた時以来だ。あの頃は、昨年のNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の舞台としても登場した鶴岡八幡宮に、由比ヶ浜の自宅から歩いて行くことができた。

 とはいえ、そこに住んでいた約10年間で、鶴岡八幡宮に初詣で訪れたことは中学1年の時の一度だけである。参道に2時間余り並んで、お参りできるのはわずか数秒―。自分の順番が近づいてきたとき、その数秒で何を神様にお願いするか、焦りながら悩んだ記憶がある。結局、家族の健康を祈るという、もっとも無難で月並みなお願いをするのが精いっぱいだった。

 しかし、そのわずか5年後、父親が48歳の若さでこの世を去った。私は高校2年生、弟は中学1年生だった。家族の健康は、無難でも月並みでもなく、何よりかけがえのないものであることを思い知らされた。

 あれから43年。にぎわいを見せているとはいえ、余裕をもってお参りができた今回の初詣では、何を祈るか、じっくり考える時間があった。夫に先立たれて1年余り、昨年は息子が急性心筋炎、私が急性腎盂腎炎(じんうじんえん)で、それぞれ入院する事態となり、家族の健康を願う気持ちはさらに強くなっている。

 でも、そんな気持ちを持つことができるのは、私が平和で安定した社会に暮らしているからではないか。世界中のあちこちで、家族の幸せや健康を願う余裕すらないまま、戦争や内乱に翻弄される人々がいることに思いを致し、2023年の私の祈りは、またしても月並みな、しかし究極の願いとなった。「全ての人々が、平和な世の中で暮らせますように」―。

 加えて、今年96歳になる大崎事件の原口アヤ子さんの再審無罪と、再審法改正の実現を祈った。

 祈りの後、標高233メートルの稲荷山に登り、木立と雲の隙間から姿を現した控えめなご来光を浴びて、新しい年がスタートした。

 新年なんて、人間が勝手に作った暦による一区切りに過ぎないかもしれない。けれどもその区切りが、人を思い、世界を思い、祈りをささげるきっかけを与えてくれる。宗教と暦の密接な関係に、今更ながら得心する。

【用語解説】大崎事件

 1979(昭和54)年10 月、鹿児島県大崎町で男性の遺体が自宅横の牛小屋で見つかり、義姉の原口アヤ子さん(当時52)と元夫ら3人が逮捕・起訴された。原口さん以外の3人には知的障害があり、起訴内容を認めて懲役1~8年の判決が確定。原口さんは一貫して無実を訴えたが、81年に懲役10年が確定し、服役した。出所後の95年に再審請求し、第1次請求・第3次請求で計3回、再審開始が認められたものの、検察側が不服を申し立て、福岡高裁宮崎支部(第1次)と最高裁(第3次)で取り消された。2020年3月に第4次再審請求を行い、鹿児島地裁で審理が行われている。

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