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「文化時報」コラム

〈63〉台湾の同志たち

2024年8月3日 | 2024年8月7日更新

※文化時報2024年5月17日号の掲載記事です。

 もう10年以上も前のこと、台湾から一橋大学大学院博士課程に留学している2人の女性と知り合った。1人は台湾で刑事弁護を多く手掛けている弁護士の顔さん、もう1人は台湾、日本、米国のそれぞれの刑事裁判における証拠開示を博士論文のテーマにしている研究者の李さんだった。当時は鹿児島県弁護士会に所属していた私は、出張で上京する機会に、たびたび彼女たちと食事を共にして、台湾と日本の法制度の違いなどを紹介し合って楽しい夜を過ごしていた。

ヒューマニズム宣言サムネイル

 2018年、台湾で「イノセンス・プロジェクト」の大会が開催された。イノセンス・プロジェクトは、冤罪(えんざい)救済活動を目的とした米国発祥の民間団体で、世界各国に広がってネットワークを構築している。大会にはアジア各国のイノセンス・プロジェクトが結集し、私も日本の一員として大崎事件について英語でプレゼンを行った。

 大会の開会あいさつに立ったのは、台湾最高検察署(日本の最高検察庁に相当)の江惠民検察総長(日本の検事総長に相当)だった。

 民間の冤罪支援団体の大会に、現職の検事、しかも最高責任者である検察総長が登壇するだけでも驚愕(きょうがく)したが、さらに度肝を抜かれたのは、江総長が開口一番、「私たちは冤罪を国家の問題として取り組まなければならない」と言い切ったことだった。

 さらに江総長は「検察官、裁判官は事件を通じ、冤罪が当事者にどれぐらいの傷を負わせたのかを心から知ってもらいたい」と続け、冤罪被害に正面から向き合う姿勢を鮮明にした。

 客席でこのあいさつを聞いていた私は、雷に打たれたような気持ちになり、即座に「この人と話がしてみたい」と思ったが、相手は台湾検察の現役のトップである。直接話をすることなど夢のまた夢だと諦めていた。

 しかし、顔さんと李さんがつてをたどり、江総長との面談を実現させてくれたのである。私は19年11月、台湾最高検に赴き、江総長はじめ4人の現役検事と、冤罪や再審制度の問題について心ゆくまで語り合った。

 台湾は、日本の刑事訴訟法を「お手本」として刑事司法制度を構築した国である。しかし、日本より先に、15年、19年の2度にわたり再審法の改正を実現させている。

 昨年夏、3度目の台湾訪問で、法改正に主導的役割を果たした当時の立法委員(日本の国会議員に相当)・尤美女弁護士と面談した。

 尤弁護士は現在、台湾全国弁護士協会理事長(日本の日弁連会長に相当)であるが、そのような要職にある人物との対面がかなったのも、顔さん、李さんのおかげだった。

 今月16日、この3月に日本で設立された再審法改正超党派議員連盟の総会で、尤弁護士に講演いただくことになった。つないでくれたのはもちろん顔さん、李さんである。2人の「同志」との縁(えにし)が、日本の再審法を動かすことになるかもしれない。その日は、確実に近づいている。

 

【用語解説】大崎事件

 1979(昭和54)年10 月、鹿児島県大崎町で男性の遺体が自宅横の牛小屋で見つかり、義姉の原口アヤ子さん(当時52)と元夫ら3人が逮捕・起訴された。原口さん以外の3人には知的障害があり、起訴内容を認めて懲役1~8年の判決が確定。原口さんは一貫して無実を訴えたが、81年に懲役10年が確定し、服役した。出所後の95年に再審請求し、第1次請求・第3次請求で計3回、再審開始が認められたものの、検察側が不服を申し立て、福岡高裁宮崎支部(第1次)と最高裁(第3次)で取り消された。2020年3月に第4次再審請求を行い、鹿児島地裁は22年6月に請求を棄却。福岡高裁宮崎支部も23年6月5日、再審を認めない決定を出した。

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