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インタビュー

橋渡しインタビュー

ファッション外来でおしゃれ伝える 橋本久恵さん

2025年8月14日

 「ファッションは楽しいと伝える伝道師になりたい」。金沢市の洋裁師、橋本久恵さん(50)は2021年6月、同市の石川県済生会金沢病院の売店内に「ファッション外来」を立ち上げた。病気や障害で着たい服を選べない、という人の相談に乗り、服の手直しやリメイクをするためだ。売店を夫婦で切り盛りする傍ら、きょうも入院・通院中の患者たちと向き合っている。(飯塚まりな)

病院の中のアトリエデザイナー

 日中は売店のレジに立ち、おにぎりを並べ、揚げ物を作る橋本さん。週に1度、白衣に着替え、ミシン1台を用意し、ファッション外来のアトリエデザイナーとして店頭に立っている。

 「パリのアトリエでは、仕立て職人も白衣を着るのが普通。決して珍しいことではないのですが、病院なのでお医者さんと勘違いされることもありますね」と笑顔で語る。

「患者さんのおしゃれの選択肢を減らさない」と語る橋本久恵さん
「患者さんのおしゃれの選択肢を減らさない」と語る橋本久恵さん

 毎週水曜の午前中、患者とその家族が橋本さんを頼ってやってくる。「裾を直したい」「病気になる前のように好きな服を着たい」と、悩みを伝えに足を運ぶ。

 ここでは、扱う服は単なるおしゃれではない。体の状態に合い、介助がしやすく、何より「自分らしさ」を備えていることが求められる。

 店内にはいくつか衣服のサンプルが並び、橋本さんは丁寧に要望を聞き取りながら、「こういう形はいかがですか」と、分かりやすくアイデアを提案する。

 

衣服が呼び覚ます「生きる力」

 ある日、車いすに乗る男性Aさんが妻と訪ねてきた。40代で事故に遭い、首から下にまひが残って体を動かすことができない。

 講演活動を行うほど積極的なAさんだが、人前に出る際に着用するワイシャツの着脱に難しさを感じているという相談だった。

 橋本さんは、「裾の下から袖に向かってファスナーを付けませんか」と勧めた。障害や体の状態によってリメイクする部位は異なるが、ファスナーは特に重宝されるパーツだ。

横開きファスナーを付けて着脱しやすくした服
横開きファスナーを付けて着脱しやすくした服

 寝たきりの80代女性Bさんの娘からは、孫の結婚式に着ていく服のリメイクを頼まれた。一人では着られないため、当日に女性の夫が簡単に着せられるようにしてほしいという依頼だった。

 実際に女性と対面すると、体がこわばり「もう死にたい」と弱音を漏らしていた。それでも、たんすにどんな色のどんな服が入っているかを細かく覚えており、ファッションが好きな様子だった。

 当日着ていく服に、なるべく形を崩さず数カ所にファスナーを取り付けた。また、普段着のオーバースカートにレースをあしらい、ロングスカートに仕立てた。

 直した服を着た女性は感激し、「あなた! コサージュと靴を持ってきて」と夫に頼むなど、意欲的になったという。

 ファッション外来では、患者が持参した衣服も1カ所につき税込み2700円で手直しできる。オーダーメードも受け付けている。

 

袖を通すと思わず笑顔に

 橋本さんは石川県七尾市出身。服飾の専門学校を卒業後、金沢市の百貨店にある高級婦人服を仕立てるアトリエで16年勤務した。さらに専門学校で10年間、講師として若手デザイナーを育成した。

 2011(平成23)年に父親が脳梗塞で倒れ、寝たきりになった。おしゃれをすることはなく、闘病中に着る衣服についての悩みを母親から聞かされていた。

 父親が亡くなった後、勤務先の学校で「ユニバーサルデザイン」の概念を知り、「父が生きている間に知っていたら…」と思ったという。

 ユニバーサルデザインは年齢、性別、障害や病気の有無にかかわらず、誰にとっても分かりやすくて使いやすいデザインのこと。たとえ病気や障害を負っても、着たい服を着ることは不可能ではない―。そう感じた橋本さんは18年、自らのアトリエ「モードアオキ服飾研究所」を立ち上げた。

ミシンに向き合う橋本さん。ベレー帽が似合う
ミシンに向き合う橋本さん。ベレー帽が似合う

 結婚後、夫が経営する病院の売店を手伝うようになって、生活が変わった。

 店に立つと、患者と顔を合わせる機会が増えた。車いすに座る患者のズボンの裾が上がり、足元が必要以上に見える姿が気になった。亡くなった父親のことを思い出し、自分に何かできないかと模索した。

 だが、コロナ禍になると途端に外来患者が売店に来なくなり、経営危機に陥った。

  「これを機にユニバーサルファッションのお悩み相談所をやろう」と、売店にコーナーを設けた。これが後に「ファッション外来」となり、口コミで徐々に広がっていったという。

 橋本さんが心掛けているのは「袖を通すと思わず笑顔になる」こと。一着一着、思いを込めて仕立て直す。患者が袖を通すまでは緊張するが、思わずうれし涙を流す人や「おしゃれができてありがたい」とほほ笑む人を見るたびに、やりがいを感じている。

 

次の担い手を探して

 現在、橋本さんは基本1人で活動している。だが、ゆくゆくは後継者を見つけて引き継がなければ意味がないと考えている。

 「ファッション外来は、人に心から喜んでもらえる仕事。これからも必要な人の役に立ちたい。発信力も強化したいですが、追いつかないのが現状なので、一緒にやってくれる人を探しています」と、先を見据えている。

ファッションは生きる希望になる
ファッションは生きる希望になる

 また、病院外では、石川県がん安心生活サポートハウス「つどい場・はなうめ」が主催するがんサロンで、月に1度、参加者のファッションについてヒアリングをしている。

 「抗がん剤で外見が変わる人も多いですが、体の部位だけに注目せずに過ごせるよう、イヤリングや帽子の色をアドバイスします」と橋本さん。どんなときもおしゃれの可能性を一緒に探る。

 身に着けるアクセサリーひとつで顔色がよく見え、気持ちが上向きになることもある。「これが本当の『服薬』ですね」という橋本さんの言葉通り、医学的な治療とは全く別の角度から、患者に力を与える。これには医療従事者も「目からうろこが落ちる」と驚いているという。

 生きている限り、人は服を着る。ならば、自分の好きな色や形を身にまといたい。今後も変わらず、患者たちに向けてファッションと医療の橋渡しをする役目を担っていく。

 

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