2026年1月22日
福祉仏教for believeでおなじみの音楽ユニット「たか&ゆうき」。筋萎縮性側索硬化症(ALS)=用語解説=を患う“たか”こと古内孝行さん(45)と介護福祉士の“ゆうき”こと石川祐輝さん(43)の取材を始めてから3年が過ぎた。年々協力者たちが増え、音楽活動は充実。たかさんの「声を残したい」という切実な願いが、人工知能(AI)の進化によって実現が確実になっている。(飯塚まりな)

たかさんとゆうきさんの出会いは2019年。ALSを発症したたかさんを心配し、妻の一美さんが同じ職場のデイサービス琴平(埼玉県所沢市)で働くゆうきさんに相談したことがきっかけだった。
次第にたかさんは、自宅で湯船に漬かることが困難になった。そこで、ゆうきさんが出勤する日に合わせてデイサービス琴平に通所し、入浴を行うようになった。
2人には共通点が多く、若い頃に本気で歌手を目指していたことや、子どもの年齢が近いこと、結婚記念日まで同じだったと知って、意気投合した。
「これからも一緒に活動がしたいから」と、ゆうきさんは重度訪問介護員の研修を受け、週2回、古内家を訪問。家族のように寄り添っている。

結成から4年。2人とも当初より体格が大きくなり、丸くなっている印象がある。「たかが重くなってきたから、支えるために鍛えています」と、ゆうきさんは笑う。
地域の小さな祭りで歌う日もあるが、昨年11月は念願だったALS啓発イベント「MOVE FES.2024」に出演した。プロのアーティストたちが勢ぞろいする中、東京・渋谷のLINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)のステージで歌声を披露した。
最近、たかさんはタブレット端末にAIアプリ「コエステーション」(コエステ)を入れた。病気が進行して声が出なくなっても、会話ができるよう自動音声で対話できるという。
従来の録音機器のように1文字ずつ録音するのではなく、患者が200の例文を読むとAIが学習し、本物に近い状態で多種多様な声を生成する。
たかさんもすでに声を録音している。試しに「ありがとう」と再生すると、感動したような「ありがとう」や、悲しそうな「ありがとう」など、感情によって声色を変えることができた。

「変な言い方だけど、ALSを発症したのが今の時代でよかったと思う」と、たかさんは語った。
記事で紹介し始めた当初は「自分の声を残したい」と、たかさんは繰り返していた。当時は高額な機材に頼るしかなく、細々と寄付金を募っていたが、コエステは無料でサービスを利用できる。テクノロジーの進化が、願いをかなえる。
たかさんはここ数年、埼玉県狭山保健所(狭山市)で開催されるALSの患者会に、妻の一美さんと参加している。
当初は患者会に出席しても、患者はたかさん一人のことが多く、他は家族やすでに他界した患者の遺族たちが集まっている状況が多かった。年齢や進行の度合いが異なるため、なかなか人数が集まらなかったのだという。
患者会にもっと人を集めようと、たかさん夫妻は他の患者会で知り合った男性と、オンラインでリモート患者会を開催。この男性は父親がALS患者だったこともあり、熱心に協力してくれた。
「皆さん自己紹介が長すぎて、時間が足りなかった」と笑うたかさん。コロナ禍でまともに直接人と会うことができない時期に、顔を見て話せた経験は大きかったという。

患者会は現在、たかさんより年上の男性患者が2人加わり、3組の夫婦がそろって情報交換できるようになった。自然とたかさんを中心に会話が広がっている。
直近では、車いすを利用している古内家の車を保健所の駐車場で実際に見てもらい、和やかな雰囲気の中、話が弾んだ。
「車の運転や乗り降りが難しくなってきた方がいらっしゃったので、『参考までにわが家の車はこんな感じです』とお見せしました」
ただ、3人はいずれも別々の市に暮らしており、制度や貸し出される福祉用具の内容などが異なるため、情報が参考にならないこともある。「もっと患者会が各地に増えてほしいと感じますが、今の仲間と離れることになるので、それもまた悩ましい」と、たかさんは話した。
そうした悩みも、取材当初の3年前に比べて、確実に活動の幅を広げてきたからこそだといえる。「たか&ゆうき」は、同じ病を抱える人々にとって希望の星となりつつある。
【用語解説】筋萎縮性側索硬化症
全身の筋肉が衰える病気。神経だけが障害を受け、体が徐々に動かなくなる一方、感覚や視力・聴力などは保たれる。公益財団法人難病医学研究財団が運営する難病情報センターによると、年間の新規患者数は人口10万人当たり約1~2.5人。進行を遅らせる薬はあるが、治療法は見つかっていない。