2023年7月4日
ニュースになるたびに心が痛む高齢者の虐待。一緒に暮らし、生活を共にする家族からの虐待は、なぜ起こってしまうのでしょうか。
そこには、家族の介護をした人でないと分からない苦しみや憤りがあります。家族は決して好きで虐待を行っているわけではありません。今回は、虐待が起きる原因と最悪の事態を防ぐ方法はないのか説明していきます。
高齢者の虐待は、以下の種類があります。
▽身体的虐待
暴力を振るうだけでなく、出歩かないように拘束することも該当します。
▽心理的虐待
暴言や無視など、精神的に苦痛を感じさせる虐待です。知らないうちに行ってしまっていることがほとんどです。
▽介護・世話の放棄・放任
介護が必要な高齢者にサービスを利用させないことや、食事、入浴など生活に必要な世話を行わず、放置することです。見た目だけでは分かりにくいため、生活環境や心身の状態を悪化させる原因になります。多くは行政や医療機関が自宅を訪問した際に発覚します。
▽経済的虐待
本人の同意を得ず勝手に現金を使うことや、通帳を取り上げることなどが当たります。認知症になれば記憶力や判断力の低下で金銭の取り扱いが難しくなりますが、家族が勝手に財産を管理してしまうことも、不正行為や虐待と見なされてしまいます。
▽性的虐待
下着やおむつを交換せずに放置することも該当します。
虐待が起こる家族形態で一番多いとされるのが、未婚の子どもとの同居と言われています。その次が子ども夫婦との同居だそうです。
厚生労働省が行った2021(令和3)年度の「『高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律』に基づく対応状況等に関する調査結果」によると、虐待を行った人の続柄では息子38.9%、夫22.8%、娘19.0%の順で、半数以上は男性介護者であることが分かっています。
独身男性が家で慣れない介護や家事をすることは、想像以上にストレスがかかります。肉体的、精神的にも限界を感じ、気付けば虐待に発展している、という傾向が見て取れます。
「そんなにつらいなら介護施設に預ければいいのに」という見方もあるかもしれませんが、入居には費用がかかりますし、待機者が多い施設だとなかなか入居できないという事情もあります。その間に、認知症や病気が進行して介護者を追い詰め、「介護うつ」に陥る人もいるのです。
まず大切なことは「1人で介護をしない」ことです。
介護はいつまで続くか分かりません。人によっては何年も向き合い、孤立してしまう場合があります。
具体的には、以下のような手段があります。
▽介護機関に相談する
近隣の地域包括支援センターやケアマネジャーに相談し、解決方法を考えてもらうことが重要です。
▽家族で協力し情報を共有する
誰か1人に任せ切りにせず、たとえ離れて暮らしている家族でも、常に情報を共有しておくことが理想です。介護サービスの担当者が変わった時や万一の際にも対応できます。ただ、介護が原因となって家族間でもめる可能性もあります。怒りの矛先が本人に向かって虐待してしまっては、本末転倒。介護や福祉のプロに相談しましょう。
▽認知症・病気について学び、理解を深める
できないことが年々増えてくるのを見ると、悲しみや怒りが湧いてくることもあるでしょう。しかし、自分を産んで育ててくれた親のことを、今度は自分が知る番なのかもしれません。認知症や病気への理解を深めれば、少しは冷静に見られるようになります。
高齢者の虐待は、一緒に暮らす家族だけが悪いと思いがちですが、そこに発展するまでには孤独や不安、相談できない苦しみを抱えているケースがたくさんあります。誰かに相談し、介護サービスを検討するなど、一歩を踏み出すことが必要です。
決して他人事ではありません。