2025年1月15日
※文化時報2024年11月8日号の掲載記事です。
保護司制度の在り方を議論してきた政府の有識者検討会が、最終報告書をまとめた。なり手不足の解消や安全確保に向けた対策が盛り込まれており、法務省は来年の通常国会にも保護司法の改正案を提出する。制度の現状や歴史的背景を踏まえると、宗教界も議論を深めるべきだ。
保護司は犯罪や非行をした人の更生を支える非常勤の国家公務員である。交通費などの実費を除いて報酬はなく、ボランティアで活動している。今年1月現在で全国に4万6584人おり、このうち12%程度が「宗教家」とされる。
主な活動は、刑務所や少年院から出たばかりの人や、保護観察付きの執行猶予判決を受けた人などの「保護観察対象者」と月数回、面接することだ。社会復帰に向けて生活や仕事の相談に乗り、地域との調整も行う。再犯防止の担い手として重宝されるゆえんだ。
有識者検討会は持続可能な保護司制度を探るべく、1年以上かけて議論してきた。今年5月には大津市で保護司の男性が殺害され、男性が担当していた保護観察対象者が逮捕された。事件を受け、複数人での対応や自宅以外の面接場所の充実といった安全対策を急遽(きゅうきょ)盛り込んだ経緯がある。
お寺に住む住職にとっては、自宅の住所や連絡先がオープンになっているのが一般的だ。それでも落ち着いた雰囲気で対象者と向き合うには、お寺が面接場所としてふさわしいという考え方もある。〝住職保護司〟の安全対策は、一般の保護司よりも課題が多いという認識の下、宗教界全体で知恵を出し合ってほしい。
なり手不足の解消を巡っては、新任の年齢制限の撤廃などが提案されたものの、論点に浮上していた報酬制への移行については「なじまない」として見送られた。
保護司制度のルーツは浜松の実業家、金原明善(きんぱらめいぜん)(1832~1923)らが明治期に設立した「静岡県出獄人保護会社」とされる。出所者に宿泊場所や仕事を提供する篤志家の活動として、趣旨に賛同した政財界や宗教界の有志が協力した。
最終報告書にも、次のように書かれている。
「保護司の無償性は、制度発足以来、利他の精神や人間愛に基づく地域社会における自発的な善意を象徴するものであり、なお堅持していくべき価値がある」
見返りを求めないからこそ、罪を犯した人々の心に届き、生き直しにつながるという側面はもちろん否定しない。ただ、その無償性を前提に国が制度を組み立てることは、善意の搾取に当たらないか。利他によって成り立つ互助と、国費で賄う公助を混ぜこぜにするのは、避けた方がいい。
犯罪を起こす人は、さまざまな生きづらさを抱えていることが多い。刑務所や少年院の外での支援に、高齢者・障害者福祉の領域が関係するケースもある。保護司にも、福祉関係の知識が求められる時代であり、専門性に対価を支払うという考え方もできるだろう。
福祉と連携するという面でも、保護司を務めるのは宗教者がふさわしいといえる。なり手不足は宗教界の課題であるとみて、対策を立てる必要がある。