2025年6月12日
※文化時報2025年3月7日号の掲載記事です。
一般財団法人お寺と教会の親なきあと相談室(小野木康雄代表理事)の支部を開設した三重県桑名市の浄土真宗本願寺派善西寺(矢田俊量住職)は2月22日、「親あるあいだの語らいカフェ」を初めて本格開催した。参加者20人余りが「そだち」「ささえ」「くらし」の3グループに分かれ、それぞれ関心のあることについて語り合った。
語らいカフェは、親が面倒を見られなくなった後に障害のある子やひきこもりの当事者がどう生きていくかという「親なきあと」の問題を巡り、不安や悩み、思いを分かち合う場として、同財団の支部(お寺)で開かれている。
参加者らは、まず本堂でお参りした後、お寺の道向かいにある2階建てのコミュニティースペース「MONZEN」に集合。そだち(療育)、ささえ(行政・地域サービス)、くらし(日常・生活支援)の中から、希望するグループを選んだ。
各グループは輪になって話したり隣同士で個別に語り合ったり、セミナーのように情報提供をしたりと、さまざまな形で進行。笑いあり、涙ありであっという間に予定の2時間が過ぎていった。
最後に再び全員で集まり、矢田住職が「心の奥から言葉を出し合ったと思います。ここで話したことはここに置いて、『語れた』という思いだけ持ち帰ってください」と呼び掛けた。
善西寺は同財団の18カ所目の支部として昨年10月に支部開設記念講演会を行い、これまでに当事者・家族らの個別相談に応じてきた。今後は偶数月の第4土曜に語らいカフェを開催する。
一般財団法人お寺と教会の親なきあと相談室は、親あるあいだの語らいカフェの運営方法や開催頻度を、それぞれの支部(お寺)に委ねている。個々の特色を生かしつつ、事情に応じて無理なく続けてもらうことを最優先にしているためだ。
運営方法を大まかに分類すれば、参加者全員が輪になって語り合う▽少人数でばらばらに語り合う▽講演・イベントや法要に合わせて行う―となるが、善西寺はテーマごとにグループを分けるという他のお寺にない手法をとった。
背景には、矢田住職が長年にわたりグリーフ(悲嘆)ケアや地域活動に力を入れてきたことがある。
矢田住職は、さまざまな自助グループのサポートを行っており、そこでの経験を語らいカフェにも生かした。深い苦悩を打ち明けたいという人が訪れた場合に備えて、MONZENの静かな部屋を使わずに確保。本堂で一緒にお勤めをすることも視野に入れた。
テーマの中に「そだち」(療育)を設けたのは、子ども食堂やフードパントリーの開催を通じて、子育ての難しさを抱える母親の相談をよく受けてきたから。発達障害のある子に何をどう教えるかを知りたいというニーズが、地域に多いと感じていたという。
これまでの取り組みの積み重ねで築いたネットワークによって、今回は看護師、作業療法士、精神保健福祉士、税理士、行政書士と多彩な専門職が顔をそろえ、語り合いの場を支えた。
矢田住職は「お寺と教会の親なきあと相談室の旗を掲げたことで、さまざまな方々から相談がくるようになった。合わせて、これまで顔見知り程度だった専門職の方々が、積極的に手伝ってくれるようになった」と手応えを語った。