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僧侶兼精神科医・斉藤大法さんが語る苦しみの意味

2025年11月29日 | 2025年11月30日更新

※文化時報2025年9月19日号の掲載記事です。

 埼玉県行田市の日蓮系単立寺院、要唱寺の住職を務める斉藤大法さん(67)は、精神科医でもある。医師になり、偶然が重なって出家した後、カンボジアに約2年間滞在。帰国後はカウンセリングや瞑想(めいそう)指導、医療者向けの講義など幅広い分野で活躍している。「苦しみは自分の魂が成長する機会となる」。そう語る斉藤さん自身も、生きづらさを抱えて生きてきた。(主筆 小野木康雄)

難病を患い、医師に

 「中学2年のとき、突然下血して2週間入院した。病名が分かるのに5年かかった」

 8月31日、横浜市鶴見区の天台宗寶泉寺(横溝常之住職)で行われた「お寺と教会の親なきあと相談室」横浜支部(畑智晃支部長)によるトークイベント「気づきの交差点」。集まった16人を前に、斉藤さんは静かに語りだした。

(画像:講演する斉藤大法さん)
講演する斉藤大法さん

 高校に入ると症状は悪化し、毎朝10~20回はトイレに行くように。2年生の3学期はほとんど出席できなかった。病院を転々とし、10人ぐらいの医師に診てもらって初めて、難病=用語解説=の潰瘍性大腸炎と診断された。

 ある病院で、医師から思いがけないことを言われた。「そんなに体を大事にしなくていい。それよりも、君がやりたいと思うことをやればいい」。驚いたが、「体を大事にするよりももっと大切なこと(人生)がある」と気付かされた。すると、薬を変えていないのに不思議と症状が改善したという。

 退院・卒業後、受験勉強ができる体力を取り戻し、医師を志した。順天堂大学の受験案内に「医師たらんと欲すれば、まず人として成(な)らねばなりません」とあった言葉にも影響を受けた。同大は不合格だったが、浜松医科大学に進学した。

唱題修行に打ち込む

 大学では最先端の医療をたくさん教わったが、「人として成る」ための学びにはたどり着かなかった。精神科医になり、大学病院で勤務していたときに、潰瘍性大腸炎を再発。思い悩んだ末、高校生の頃にお世話になった日蓮宗の尼僧を訪ねた。

 その尼僧は、症状が大変だったころに親戚が「最後の神頼み」と紹介してくれた人で、瘦せ細ってつらそうにしている自分から目をそらさずに話をしてくれた。仏教の難しい話は分からなかったが、次のような言葉が印象に残っていた。

 「信じられる自分になりなさい。そうなったとき、あなたの持っているものが発揮される」

(画像アイキャッチ兼用:斉藤さんの話に聞き入る「気づきの交差点」の参加者たち=8月31日、横浜市鶴見区の天台宗寶泉寺)
斉藤さんの話に聞き入る「気づきの交差点」の参加者たち=8月31日、横浜市鶴見区の天台宗寶泉寺

 悩みを聞くことぐらいはしてくれるだろう、と思ってお寺を再訪すると、ちょうど寒修行の期間中で、参加を勧められた。意味も分からず唱題修行=用語解説=に取り組むと、合掌する手が上がりだす不思議な体験とともに、あれほどあった不安や悩みが、心の隅々まで見渡しても消えていることに気付いた。

 寒修行の3日目に大学病院を辞める決断をした。その後、日蓮宗総本山身延山久遠寺(山梨県身延町)で僧侶になると、実に約20年間にわたって尼僧のお寺で修行を続けた。

瞑想と祈り 医療者にも

 2006~08年にはカンボジアに滞在。アジアの仏教徒とつながり、貧困からの脱却を目指す超宗派団体「四方僧伽(さんが)」から要請され、求められるがまま、現地のお寺に赴任した。仏教伝道と合わせて、ため池や道路づくりなどのインフラ整備に汗を流した。

 帰国後に縁ができたのは、さまざまな依存症に苦しむ人たちだった。虐待やネグレクト、過干渉といった幼少期のトラウマを緩和するために、アルコールやギャンブルに頼らざるを得ないのだということに気付いた。

 トラウマから解放されて初めて依存症から回復できると考え、唱題修行による瞑想と祈りを実践。精神科医として、科学的根拠(エビデンス)に基づいて瞑想と祈りの効果を伝えており、糖尿病専門医対象のセミナーや神奈川歯科大学大学院などで講義した実績がある。

 医療現場が抱える課題については、千葉大学医学部教授や同大学学長を務めた川喜田愛郎医師(1909~96)が著書『医学概論』(ちくま学芸文庫)で「人が病むという事実をいわゆる医学の型紙に合わせて裁断し…」と指摘したことに基づいて「医療者は、望まないことを強制してしまうかもしれない。その人が何を望み、どんな人生を歩みたいかを聞く必要がある」と語る。

(画像:トークイベント「気づきの交差点」が行われた天台宗寶泉寺)
トークイベント「気づきの交差点」が行われた天台宗寶泉寺

 さまざまな苦しみと縁が折り重なって、精神科医として培った知識と技術を生かしつつ僧侶として活動するようになった斉藤さん。トークイベント「気づきの交差点」の最後には、唱題修行を実演し、力強く伸びやかな声で「南無妙法蓮華経」と唱えた。

【用語解説】難病

発病の機構(原因)が明らかでない▽治療方法が確立していない▽希少な疾患▽長期の療養が必要―という四つの要件を満たす疾患。厚生労働省は、難病の中でも、患者数が一定数を超えないことや、客観的な診断基準が成立しているなどの条件を満たす疾患を「指定難病」としており、重症患者には医療費を助成している。2025年4月1日現在、潰瘍性大腸炎やパーキンソン病など348疾患が指定難病となっている。

【用語解説】唱題修行(しょうだいしゅぎょう=日蓮宗)

 姿勢や呼吸を整え、題目「南無妙法蓮華経」をひたすら唱える修行。唱題行とも。

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