2024年4月10日 | 2024年10月2日更新
※文化時報2023年11月7日号の掲載記事です。
めもるホールディングスの中核会社で葬儀社のメモリアルむらもと(北海道恵庭市)が2021年7月に始めた「旅葬」の「巡輪偲(じゅんりんさい)」が好評だ。座席の隣に棺(ひつぎ)を載せられる専用バスを利用し、故人と共にゆかりの地を巡る、全く新しい形の葬儀。22年の施行件数は65件で、まだ同社の全施行件数の2%にも満たないが、竹本学社長は「満足度は従来の葬儀に比べ格段に高い。一般葬、家族葬、火葬式(直葬)に続く第4のカテゴリーに育てたい」と意気込んでいる。
旅葬「巡輪偲」を開始した意図・背景について、竹本社長は次のように語る。
一つは、日本は世界一の超高齢社会になっていること。葬儀会場に行けない“交通弱者”の増加が予想されることから、故人と家族が車に乗ってあいさつに出向けば良いのではないかと考えた。
葬儀は残された者たちが集まって故人との思い出を語らい、それを共有する場でもある。家族でかつて過ごした場所を巡れば、皆で思い出を共有できると思ったのだという。
「巡輪偲」の基本プランは、葬儀・告別式の前日に日帰りで行い、葬祭ホールに宿泊した上で、翌日に告別式だけを行い出棺する。料金は、通常の葬儀と負担感は変わらないよう、添乗員を含め58万800円(税込み)とした。
21年はトライアル期間だったが、22年から販売を開始し目標を80件に設定。4000件近い同社の施行件数からすると少ないと感じるが、「全く新しい葬儀を多くの人たちに知ってもらうには、時間がかかる。丁寧に時間をかけて一人ずつ伝えていくことが大切」との考えによる。
また、北海道は雪が降るため冬場はバスを走らせられない。稼働8カ月、月10件と考えて年間80件という目標にしたのだという。同社で葬儀や事前相談を行う遺族全員に提案するようにしたところ、22年に「巡輪偲」を行った遺族は65件で、内訳は火葬式を希望していた遺族が半数、あとの半数は無宗教葬を含めた一日葬を希望していた遺族だった。
「巡輪偲」を選んだ遺族に共通しているのが、「最後に会いたい人がいる」ことだという。また、火葬式を希望する遺族は、経済的な理由や儀式を重視していない考え方までさまざまだが、「巡輪偲」の説明をすると、「そういう葬儀なら行いたい」という人がいるという。
一日葬を希望する遺族にとっては、通夜には何もしないので時間が空いている。そこで、「告別式の前日はバスに乗って、思い出の地を巡りませんか」と提案すると、「それはいいですね」と答える遺族がいるという。
巡輪偲を行った遺族の反応は「これは、私たちのためにあるプラン」などと言う人が多く、満足度は従来の葬儀に比べて格段に高いという。
今後について、竹本社長は「事前相談で巡輪偲を選ぶ人や、巡輪偲を行いたいために当社の会員になる人も出てきている。こうしたことから、必ず花開く事業だと手応えを感じており、いずれ全道、さらには全国への展開を目指す」と力強く語っている。
販売実績のまだ少ない巡輪偲を筆者が取り上げたのは、次の理由からである。
一つは、火葬式・一日葬は全国的に増え続けているが、巡輪偲はそれらを希望する遺族に選ばれており、火葬式・一日葬の増加に歯止めがかかったり、葬儀の第4のカテゴリーが生まれたりする可能性があることだ。
もう一つは、葬儀社のビジネスという視点でみると、葬儀の平均単価は全国的に下落傾向をたどっているが、巡輪偲は単価アップに寄与していることである。
もっとも、今回の事例では、宗教葬が増減しているわけではないので、今のところ宗教者・宗教法人に直接の影響はない。
だが、新しい葬儀形式が生まれ、それが多くの生活者に支持されると、宗教葬も含めた従来の葬儀形式は相対的に少なくなっていく。そうならないためには、従来の宗教葬を改善・改革したり、新しい宗教葬をつくったりしなければならない。
そうした視点から見ると、これまで火葬式、無宗教葬、一日葬が増えてきたのは、宗教者・宗教法人の認識・努力不足にも要因があり、巡輪偲の登場も他人事と受け止めてはならないだろう。