2024年9月13日 | 2024年10月2日更新
※文化時報2024年4月2日号の掲載記事です。
2013(平成25)年創業の株式会社ファミリーヒストリー記録社(東京都足立区、吉田富美子社長)は、その名の通り家族の歴史を聞き、調べ、記録する調査会社である。さまざまな依頼に応じているが、特に力を入れているのは「軍歴証明書」の解説だ。通常は「家族の歴史が分かって良かった」「子や孫に残すことができて良かった」などの感想が多いが、軍歴証明書の解説は「供養にもなる」と、とても喜ばれているという。
老舗の食品メーカーで28年間研究開発に携わっていた吉田社長が起業したのは、51歳の時。命にかかわる病気になった父親のルーツを調べて、本にまとめて家族に配ったところ、泣いて喜ばれて「宝物」とまで言われた。「これは、家族の絆を深める良いものだ」と思ったのが起業のきっかけだ。
家族の歴史といっても幅は広い。同社では主なサービスプランとして、①家系図②ルーツ調査③ファミリーヒストリー作成―の三つを用意している。3年半ほど前の依頼比率は、①38%、②36%、③5%、その他が21%だった。
②③については、戦争従軍者の公的記録である軍歴証明書の追跡調査・解説も行う。②のルーツ調査の約半数、③のファミリーヒストリーのほぼ全数が依頼しており、依頼する人は全体の22%を占める。
その理由は、依頼者の年代だ。70~80代は父世代、40~50代は祖父・曽祖父世代が日中戦争や太平洋戦争で従軍した人が多いのだという。「太平洋戦争におけるわが国の戦争被害」(立教經濟學研究45巻4号)によると、日中戦争と太平洋戦争を合わせた軍人・軍属の死者は約220万人にも上る。
同社は、軍歴証明書の解説だけのプラン「従軍の足跡」を追加し、20年8月からサービスを開始した。その意図は、依頼者に従軍した家族のいる人が多いこと、軍歴証明書解説の評判が良いことに加え、「当社の売り物になるから」と吉田社長は明かす。
軍歴証明書は、親族であれば取ることはできるが、調査員でも専門知識がないと、解読・解説するのが難しい。その点、同社の社員2人・外部スタッフ20人の中には、軍事関係などの専門知識を持った人が2名おり、解読・解説が可能なのだそうだ。
「従軍の足跡」をリリースしてから3年半後の現在の依頼比率は、「従軍の足跡」4%、「ルーツ調査」と「ファミリーヒストリー作成」での軍歴証明書解説は22.5%、合わせて26.5%となり、リリース前より4.5ポイント増と好調である。
同社は、依頼者への納品後にアンケートを行っており、「従軍の足跡」に対する感想で特徴的なのは、他のサービスに比べて「供養になる」という声が多いことだという。例えば、「父の墓参りに行って、ねぎらいの言葉をかけたい」「『従軍の足跡』を頼りに任務地を訪ね、父をしのびたい」「近日中に親戚で集まり、祖父を懐かしみたいと計画している」などの声だ。
今後について、吉田社長は「現在も戦争が身近にある中で、『従軍の足跡』の意義は大きいと考えている。軍歴証明書から兵士のリアルな姿を感じさせることのできるような、調査力と筆力のあるスタッフの育成にさらに力を入れていきたい」という。
また、「法人の歴史にとっても戦争の影響は大きく、さまざまな試練を経て今がある。法人向けのカンパニーヒストリーサイトを公開する」と語った。
ファミリーヒストリー記録社は、聞き取りと綿密な調査をモットーにしており、寺院や神社とも関係が深い。調査依頼を受けて、墓石や寄進物などに刻まれた先祖の名前を探したり、調査依頼者を通じて菩提寺に先祖に関する情報がないか尋ねたりしているからだ。
これらの調査に対する寺院や神社の対応について、吉田社長は「お寺にとっては、調査をきっかけに檀家との関係がより密になるというメリットがあり、おおむね親切な対応をしていただいている。お寺への調査により、古い先祖が分かることもあり感謝している」と話す。
しかし、調査依頼者が離檀しているためにお寺へ調査を依頼するのが難しかったり、個人情報として教えてもらえなかったりして、調査が先に進まないこともある。そのため、吉田社長は「個人情報保護に反しないように現檀家・元檀家の情報をお聞きするには、調査会社としてどうしたらいいのか知りたい」と語っている。
檀家離れがこのようなところにまで影響を及ぼしているとは、驚きである。