2022年11月13日
理性に価値判断を任せていては
人間は物事を一切決定することができない
――SF作家、伊藤計劃(1974~2009)
伊藤計劃のデビュー作『虐殺器官』にある一節です。近未来の紛争を描いたSF小説で、米軍の特殊部隊で活動する主人公のクラヴィス・シェパードが、カウンセリングを受けながら考えているシーンの言葉です。
作中でカウンセラーは、自分たちの役割が「兵士を戦闘に適した感情の状態に調整すること」であると言い、倫理や道徳が戦場での迅速な判断を邪魔しないようにしているのだ、という趣旨のことをシェパードに伝えます。
現実社会を生きていく上で、理性はもちろん大切にしなければなりませんが、人間は「感情の生き物」と言われるように、理性だけでは動きません。認知症や障害の有無にかかわらず、感情を基準に行動することは、どんな人にもある経験でしょう。
介護職や支援者の方々も、理性だけでは割り切れない感情が湧き起こることがあろうかと思います。誰にも言えないような負の感情に、苦しむこともあるかもしれません。
それも仕方のないことです。必要なのは、「行動に移さない理性」を、しっかりと保つことだけです。福祉の現場は、戦場ではないのですから。