2025年12月11日
※文化時報2025年10月21日号の掲載記事です。
浄土宗雲上寺(宮城県塩釜市)の東海林良昌住職が共同代表を務める全国介護者支援団体連合会(東京都新宿区)は5日、大本山増上寺(同港区)でケアラーズカフェを催した。介護に関する講演会と談話会が行われ、介護者と僧侶、ボランティア団体代表、福祉を学ぶ学生ら約20人が参加。東海林住職は「介護に関わる人々が情報を共有し、本音や悩みを語り合う機会として今後も続けていきたい」と語った。(山根陽一)
増上寺でのケアラーズカフェは7月に続いて2回目。今回は東京都健康長寿医療センター(同板橋区)の前田優貴乃研究員が「若年性認知症の方とその家族への支援」と題して講演した。

65歳未満で発症する若年性認知症の人は国内で約3万5千人と推定されるが、未受診者などを含めた実際の数は分かっていない。診断される前に症状が進行し、社会生活が事実上困難になる課題も指摘されているという。
前田研究員は、若年性認知症では配偶者が介護するケースが多いものの、両親の介護や子育てと重なりがちだと指摘。日常生活の制約や介護費用がかさむことによる経済的困窮、専門職や公的支援の不足、相談相手の不在による孤独感などが大きなストレスになるとの認識を示した。
こうした介護ストレスの予防には、瞑想(めいそう)や読経などの時間を持つ▽経済面の支援制度を活用する▽相談できる場所を持つ―ことが効果的だと強調。「職場での若年性認知症の理解を深め、当事者が社会参加できる場の整備を進めた上で、介護者にも有益な支援制度を充実させることが重要だ」と述べた。
講演後の談話会では、自坊で「介護者の心のやすらぎカフェ」を開催する下村達郎・浄土宗香念寺(同葛飾区)住職の司会で、参加者同士悩みや実情を語り合った。

香念寺の会合に参加している女性は、夫が68歳のときに認知症と診断された。生活が一変し、自身の仕事も大きな影響を受けた。若年性アルツハイマー型認知症と闘う丹野智文氏の講演を聴くなど、積極的に患者や支援者と交流することで、乗り越える気持ちになったという。
女性は「主人は今日もグラウンドゴルフに出かけている。外に出て人と触れ合うことが刺激になるらしい」とほほえんだ。
下村住職は「介護者の気持ちが怒りから諦めに変わり、執着をなくすことができれば、落ち着きを取り戻せる。簡単ではないが、同じ境遇の人と苦労を分かち合えばできるはずだ」と力をこめた。その上で、神聖な空間を提供できる寺院は「気持ちを委ねられる場にふさわしい」と話した。
一方で厳しい現実を吐露する参加者もいた。
両手が不自由な高齢の母親を介護する女性は、人感センサーで点灯するライトをトイレに設置するかどうかで悩んでいるという。「この人は一体あと何年生きるの? 死んだ後、一人になった私はどうやって生きるの?」とつぶやいた。
1994(平成6)年から東京都世田谷区で「認知症患者のおしゃべり会」を主宰する西澤惠さんは、認知症患者や支援者の公的サポートが脆弱(ぜいじゃく)であると批判する。仕事を犠牲にして親を介護する人は、自身の将来を考える時間も余裕もない。「親が亡くなった途端に年金はなく、介護専門職も来なくなり、一人で取り残される。抜本的な対策が必要」と力をこめる。
横浜市泉区の認知症カフェ「デ・アイ」は、介護する家族や軽度の認知症と診断された人、介護や専門職が集う。飴矢敦子代表は、治療薬が日々進化し、認知症の人たちの生活スタイルが変化する中、「さまざまな立場の人が情報共有することが重要」と主張する。

臨床仏教師=用語解説=の伊藤竜信・浄土宗西蓮寺(山形県米沢市)住職は、老いや介護の悩みについて考える「米沢わげんの会」を運営。地元の地域包括センターの協力で、介護予防体操やさまざまな講座を催している。「参加者が仏様のような和顔になってもらえたら」と語った。
今回のケアラーズカフェを振り返り、東海林住職は「介護者の苦悩は多様で解決は簡単ではないが、集まって、話して、分かち合うことが救いになる」と意義を説いた。3回目は来年2月15日に増上寺で予定している。
【用語解説】臨床仏教師(りんしょうぶっきょうし=仏教全般)
医療や福祉、被災地などの現場で、生老病死にまつわる苦に向き合いながらケアを行う仏教者。座学、ワークショップ、実践研修を経て臨床仏教研究所が資格認定する。従来キリスト教関係者が手掛けてきた臨床牧会教育プログラムや、台湾の臨床仏教宗教師の研修制度を踏まえ、2013(平成25)年に創設された。