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インタビュー

橋渡しインタビュー

独りぼっちの妊娠をなくしたい ピッコラーレ

2026年3月12日

 妊娠中に一度も病院とつながらず、孤独の中で出産する女性たちがいる。東京都豊島区の認定NPO法人ピッコラーレは「にんしんSOS東京」を運営し、10代、20代の女性を中心に妊娠・性に関する相談を受けている。医療従事者と福祉の専門家たちが集結し、乳幼児が虐待死に至る前に、困っている女性たちを救おうと奮闘している。(飯塚まりな)

若い妊婦に手を差し伸べる

 「独りぼっちの妊婦をなくしたい」。そう話すのはピッコラーレ代表の中島かおりさん(54)だ。

 2015(平成27)年12月に「にんしんSOS東京」を開設。16年3月に法人化し、18年にNPO法人ピッコラーレとなった。相談だけでなく、20年には若い妊婦の宿泊や就労を無償で支援する施設「ぴさら」を設けた。

(画像1:ピッコラーレ代表で助産師の中島かおりさん)
ピッコラーレ代表で助産師の中島かおりさん

 中島さんは28歳で1人目を出産。妊娠・出産に伴う精神的な負担や産後のしんどさを経験したが、4年後に2人目を出産した。

 出産時にお世話になった助産師から「今からでも目指せる」と後押しされ、乳児を抱えながら助産学を学び始めた。

 助産師・看護師・保健師の資格を取得後は病院や助産院で勤め、新生児訪問など地域で暮らす母子に寄り添い、夢中で働いた。

 一方で家を空けることが多い中島さんを、子どもたちは寂しがっていた。夜勤の日は、ランドセルをカタカタ鳴らして帰ってくる姿に後ろ髪を引かれながら、職場に向かっていたという。

 あるとき、知人を通じて10代のシングルマザーと出会った。彼女の元には「妊娠したかもしれない」と心配する同世代の友人たちが訪れていた。その姿に、妊娠に悩む若者たちが相談できる場所がない現状に気付き「大人がサポートする必要があるのでは」と感じるようになった。

 中島さん自身、妊娠したときには人生が大きく変化することに戸惑ったという。「私の場合、家族の協力や職場の理解があり、恵まれていたと思います。それでも“いい母親”“いい子育て”とは何かを悩みました」

 だからこそ、たった1人で子育てをする女性たちに心から尊敬の念を抱いている。

(画像2:ピッコラーレのイベント活動)
ピッコラーレのイベント活動

医療だけでは解決できない

 日本の児童虐待による死亡事例で、最も多いのは0歳児だ。こども家庭庁の2023年度「こども虐待による死亡事例等の検証結果」によると、全体の約7割を占めている。

 生後0日で亡くなる子どもの場合、出産前から適切な医療や支援を受けずに病院以外の場所で生まれてしまうケースが多く、母親は犯罪者として扱われてしまう。

 なぜ、そのような状況になるのか。

 多くの場合は、経済的困難やドメスティックバイオレンス(DV)、虐待、疾病、出産の知識不足などの困難を抱えている。本来は行政の支援を必要とするが、そこに至らなかった女性たちだ。

 「こんな悲しい出産をさせたくない、妊娠中から彼女たちとつながる窓口をつくりたい」。中島さんは本業の傍ら、ボランティア7人で相談支援を開始した。

(画像3アイキャッチ兼用:周囲のサポートで、無事に生まれてきた赤ちゃん)
周囲のサポートで、無事に生まれてきた赤ちゃん

 当時は母子保健や児童福祉の制度に、困難な状況にいる乳児や妊婦への支援が十分に位置づけられていなかった。実際に相談者と一緒に行政の窓口に同行しても、支援が得られないことがあった。

 「医療だけでは解決できない。子どもがおなかにいる時から、母子を支える場所と制度、法律が必要だ」。中島さんは「ないならつくろう」と、その必要性を伝えるために「ぴさら」を開設し、現行制度の改善に声を上げ続けてきた。

妊娠前の不安や中絶の相談も

 ピッコラーレには年間1000人以上から相談が寄せられる。近年は人工知能(AI)で知り、相談してくる若者も増えている。電話やメール、チャットなどを使い、その7割は「避妊を失敗した」「生理がまだ来ない」など妊娠への不安を訴える内容だという。

 匿名で全国から相談ができるため、誰にも打ち明けられない事情を話すことができる。女性本人だけでなく、男性パートナーから避妊に関する相談も受けており、適切な情報提供と面談を行っている。

 一方で、誰にも相談ができずに出産を迎える妊婦から連絡を受けることもある。会社の寮で1人で出産した人や、日雇いのアルバイトをしながらインターネットカフェで暮らしている妊婦からSOSが入ったこともある。

 直接会って病院に付き添うこともあるが、遠方の場合は所在地を確認し、地元の保健所などと連携して支援につなぐ。

 中絶の相談を受けることもある。「中絶はしたくないが、するしかない」「中絶は絶対にできない」と思い悩むケースもあるという。

 そのようなときは、本人の思いを聞きながら、中絶の手続きや養子縁組、経済的な支援などの選択肢を説明する。

 「ピッコラーレはいつでも中立な立場で、本人の思いを尊重します」と中島さんは話す。

(画像4:「ぴさら」の居室(左)と食事。明るい雰囲気で妊婦を支える)
「ぴさら」の居室(左)と食事。明るい雰囲気で妊婦を支える

自己責任ではない

 虐待死がゼロにならない現実に、中島さんは「相談窓口だけでは、虐待死をなくすことができない。社会全体の動きが変わる必要がある」と話した。

 「私たちの身近にも、気付かれていないだけで、ひとりぼっちで困っている妊婦はいるかもしれません。子どもや妊婦が大切に守られる優しい社会になってほしいです」

 妊娠に悩む女性を救えず、事件が起きてから問題視するのでは手遅れだ。必要なのは、私たち一人一人の想像力と、実際に困っている人に手を差し伸べられる覚悟ではないだろうか。

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