検索ページへ 検索ページへ
メニュー
メニュー
TOP > 橋渡しインタビュー > 「怒りを灯りに」凹凸ラボ・木村絵美子さん

インタビュー

橋渡しインタビュー

「怒りを灯りに」凹凸ラボ・木村絵美子さん

2025年5月22日 | 2025年5月23日更新

 仙台市の社会福祉士、木村絵美子さん(40)は2023年6月に「凹凸(おうとつ)ラボ」を立ち上げ、「怒りを灯(あか)りに変える」をテーマに、子どもの発達特性に関する講演活動を行っている。2人のわが子の発達障害に悩む時期があったという木村さんは、自分を変えるためにアンガーマネジメント=用語解説=を学び、今後は精神保健福祉士の資格取得を目指している。

自分とはどんな人間か、理解を深める

 発達障害は脳の働きにより身体、学習、言語、行動など日常生活に支障がある状態のこと。発達障害の可能性がある小中学生は、2022年の文部科学省調査によれば35人学級だと3人いる割合だといい、特性に応じた支援の充実が求められている。

 木村さんは凹凸ラボの名称に「人は凹凸のある生き物だからこそ、それぞれが補い合って社会が発展する」との思いを込めている。24年度には宮城県障害福祉センターの日常生活支援事業で「凹凸教室」を開催した。

(写真1:凹凸ラボ教室の様子)
凹凸ラボ教室の様子

 これまでの支援事業では、視覚障害や肢体不自由などについて取り上げることはあったが、目では見えにくい子どもの発達特性に関する講座は初の試みだったという。

 木村さんは、発達障害は決して人ごとではなく、多かれ少なかれ人には発達特性の違いがあると伝えている。

 仙台市の小学校で行う出張授業では、「怒り」をテーマに、まず児童が自分に起きたイライラやモヤモヤを考えて書き出してみる。子ども同士でネガティブに感じたことを共有し、自分とは違う相手の感覚や視点に気付き、ポジティブな思考を促すことが狙いだという。

 「私を含め、人は意外と自分のことをよく分かっていません。自分と相手の違いを理解し、自分のことを深く知ることが、さまざまな問題や怒りを乗り越えるヒントになります」

(写真2アイキャッチ兼用:凹凸ラボを主宰する木村絵美子さん)
凹凸ラボを主宰する木村絵美子さん

 また、発達特性の場合、脳の性質上、苦手なことに挑戦してもできないことがある。本人の努力だけで解決できない場合、周囲の声かけや環境づくりをどう行うといいのか、凹凸ラボを通して考える機会ができればと木村さんは願っている。

 木村さんは「発達特性を知ることで、イライラを減らす」と話すが、自身からは怒りとは無縁なほど穏やかな空気が漂う。それでも子どもの頃から短気で、すぐにいら立つ性格だったといい、そのことにネガティブな感情を抱いていた。

 出産後にアンガーマネジメントを学びながら、怒りとは何が原因で起こるのかを知ることで、感情のコントロールが少しずつできるようになったという。

怒りが自分自身を振り回す

 木村さんは1984(昭和59)年生まれ。大阪府で育った。大学では社会福祉を専攻し、障害者へのボランティア活動に取り組んだほか、インドやモンゴルに行って女性支援を行うなど、積極的に活動していた。

 就職後は、障害者施設の生活支援員や相談支援員などとして働いた。結婚後、2014(平成26)年に長男、16年に次男を出産。次男は3歳で自閉スペクトラム症(ASD)=用語解説=と診断され、支援学級に通っている。昨年10歳になった長男も同じ診断を受けた。

写真3:電車のおもちゃで遊ぶ幼い頃の長男と次男
電車のおもちゃで遊ぶ幼い頃の長男と次男

 木村さんは、思い通りにならない育児に奮闘してきた。幼稚園では、長男は子どもたちの輪の中に入らず、大きな音を嫌がった。回るものが好きで、ひたすら洗濯機の水の動きを見ているような子どもだった。

 次男は自分の世界に入り込むと、声をかけても届かない。外出時には急に駆け出すことを繰り返すので目が離せず、2歳の頃はハーネスを付けていた。

 木村さんは怒りがピークに達すると、子どもだけでなく夫にも当たり、その後に罪悪感を募らせた。

同じ悩みを持つ人のために

 「このままでは家庭崩壊になりかねない」と、自らアンガーマネジメントを学び始めた。アンガーマネジメントは、怒りの感情をコントロールする心理トレーニングで、例えば怒りの感情が湧いたときに6秒間待つことで、冷静さを保つ。次第にストレスの軽減につながる効果があるとされる。

 「実際には今でも怒ってしまうことはあります。ですが、子育てに対してネガティブな気持ちを引きずることは格段に減りました。自分や周りを認めることができ、だいぶ楽になったと思います」

写真4:仙台市内の小学校で児童に向かって話す木村さん
仙台市内の小学校で児童に向かって話す木村さん

 木村さんは社会福祉士としての知識や現場での経験、アンガーマネジメントの学びを生かして、自分と同じ子育ての悩みを抱える人に向けた活動をしたいと考えるようになった。

 現在は、育児での出来事を中心に「わが家のゲーム切り替え方法」「チクッとした言葉を言ってしまうとき」などのテーマを掲げ、会員制交流サイト(SNS)などで情報発信を行う。無料相談も受けており、障害のある子どもを持つ親から話を聞くこともある。

 今後は精神保健福祉士の取得を目指し、勉強を始めている。発達特性が強い場合、生きづらさや自己肯定感の低下により、将来的に精神疾患を引き起こし、うつ病や不安障害などを発症するケースがあるからだ。

 ASDのわが子の将来を考え、穏やかに生きるためにも、木村さんは次のステージに向かっている。子育ての悩みは尽きないが、「全てが今の私につながっているので、福祉の仕事に就いてよかった」とほほ笑んだ。

【用語解説】アンガーマネジメント

 怒りを予防、制御するための心理療法のプログラム。米国で1970年代に始まったとされ、当初は犯罪者の矯正に活用されていた。一般社団法人日本アンガーマネジメント協会は、怒りが深刻な問題になることを防ぐためのファシリテーターを養成している。

【用語解説】自閉スペクトラム症(ASD)

 コミュニケーションや対人関係の困難と、特定のものや行動への強いこだわり、限られた興味などの特徴がみられる発達障害。かつては自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー症候群などの名称で呼ばれていたが、アメリカ精神医学会が2013年に発表した精神疾患の診断基準(DSM)第5版からは自閉スペクトラム症に統一された。約100人に1人いるとされる。

おすすめ記事

error: コンテンツは保護されています