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インタビュー

橋渡しインタビュー

寺院と市民団体、財団で束ねる 大河内秀人住職

2025年7月21日

※文化時報2025年4月4日号の掲載記事です。

 浄土宗寿光院(東京都江戸川区)と見樹院(文京区)の大河内秀人住職(67)は、30年以上にわたり境内や伽藍(がらん)を開放し、さまざまな社会活動を実践・支援してきた。この取り組みをより合理的、持続可能にすべく昨年、一般財団法人リタ市民アセット財団(藤居阿紀子理事長)を設立。寺院と市民団体を財団で束ねることにより、利他の精神で多くの人が社会貢献できる仕組みを整えた。子ども支援、高齢者福祉、環境問題、国際交流、被災地支援など、多岐にわたる分野で市民が担い手になっていく。(山根陽一)

利他で皆を豊かに

 《2月11日、タワーホール船堀(江戸川区)でリタ市民アセット財団設立記念フォーラムが開催された。寿光院が所有する施設「小松川市民ファーム」「ほっと館」「松江の家」(いずれも同区)や見樹院を活用する多くの団体が活動をアピールし、課題や意義を語り合った》

(画像①:30団体以上が参加し討論会も行ったリタ市民アセット財団設立記念フォーラム=2月11日、東京都江戸川区のタワーホール船堀)
30団体以上が参加し討論会も行ったリタ市民アセット財団設立記念フォーラム=2月11日、東京都江戸川区のタワーホール船堀

――財団を設立した目的は。

 「社会活動を志向する多くの人々は場所を求めている。これまでも多くの団体に寺院が持つ建物や部屋を提供してきたが、それだけでは一過性の関係。持続性を持たせる仕組みを作りたかった」

 「地域社会や世界の課題は山積みなのに、多くのNGOやNPOはヒトもカネも乏しく、少しでも役に立ちたいという気持ちが原動力となった。寺院のコントロールが利いて、各団体が合理的に活動できるには一般財団法人が適切だと判断した」

――いつから新しい仕組みづくりに取り組み始めましたか。

 「2021年から調査研究を始めた。公益財団法人庭野平和財団からアドバイスや助成をいただき、24年8月に設立趣旨を発表。寄付者を募ると短期間で550万円を超える金額が集まり、11月11日に財団を設立することができた」

――設立記念フォーラムには多彩なNGO、NPOが参加しました。

 「寿光院の地元、江戸川区を中心に約30団体が参加した。高齢者支援の『ほっとコミュニティえどがわ』、環境問題に取り組む『全国川ごみネットワーク』、外国人のための保健活動を行う『シェア』、住みよい未来のためにお金の使い方を提案する『未来バンク』などだ」

――大河内住職もさまざまな社会活動に取り組んでいますね。

 「『原子力行政を問い直す宗教者の会』の事務局、パレスチナ子どものキャンペーン代表理事などを務めている。リタ市民アセットは、私自身の活動を支援する仕組みでもある」

――「リタ」という名称にはどんな思いを込めていますか。

 「『利他』は自分が幸せになるという概念『自利』と対になる言葉だが、相反するわけではない。自分と他人どちらか一方だけでは幸せになれないという仏教の教えに基づく」

 「『リタ』はラテン語では光り輝くもの、真珠という意味もある。みんなで豊かな場をつくっていこうという思いを込めている」

(画像2:リタ市民アセット財団のロゴマークとキャッチコピー)
リタ市民アセット財団のロゴマークとキャッチコピー

仏教とNGOに類似点

 《大河内住職は慶應義塾大学と大正大学を卒業後、全国青少年教化協議会(全青協)に入職した。さまざまな社会活動に触れる中で1980(昭和55)年、旧ポル・ポト政権による大量虐殺を逃れた多くのカンボジア難民を救済する活動を志すようになった》

――学生時代や若い頃はどんなふうに過ごしてきましたか。

 「寺の子どもとして生まれ、小学校3年生の時に得度した。一方、きょうだいはミッション系の学校に通い、キリスト教の団体とも付き合いがあった」

 「実家は小さな寺だったので、寺院運営だけで生計を立てるのは難しいという思いもあった。そういう中で光化学スモッグなどの公害問題が表面化し、大学時代は少し上の全共闘世代の人々と交流し影響を受けた」

――若い頃から社会問題に関心があったのですね。

 「大学時代は当時の反体制派のジャーナリズムに傾倒したが、本当に社会問題に目覚めたのは全青協に就職してから。東京仏教青年会にも所属し、宗派を超えて多くの人々と交流した。香川県で活動する曹洞宗の野田大燈氏の非行少年や不登校児支援の取り組みにも大きな影響を受けた」

――仏教思想が社会活動に役立つことはありますか。

 「少年時代、仏教は死んだ人、キリスト教は生きている人の面倒を見るのが務めという認識があった。だが、他宗教・他宗派との交流の中で、仏教の本質が分かり始めた」

(画像③:リタ市民アセット財団設立記念フォーラムでは、参加団体がブース出展し活動をアピールした)
リタ市民アセット財団設立記念フォーラムでは、参加団体がブース出展し活動をアピールした

 「布施をする人、布施を受ける人、施す物の3者が全て清らかであるという『三輪清浄』という仏教の教えと、NGO団体は似ている。長い歴史の中で蓄えられた浄財は、今の時代では健全な市民社会を支える一助になるべきだと思う」

人との出会いが財産

 《大河内住職自身、さまざまなNGO活動を行う中で、寿光院が持つ土地や建物の活用方法を考えた。市民活動の拠点とし、活動を育てていくという発想で1990(平成2)年、「小松川市民ファーム」を設立。この取り組みがリタ市民アセット財団の原点となった》

――30年以上の活動を通じて、さまざまな人との出会いや協力があって生まれたのがこの財団ですね。

 「『未来バンク』理事で立教大学講師の奥田裕之氏や、青年海外協力隊で活躍した『シェア』理事で医師の本田徹氏など、数え切れない人々の賛同や協力で成り立っている。こうした仲間と98年にスタートした「江戸川NGO大学」は、異なる専門性やテーマを包括するネットワークとなり、今でも機能している」

――将来、財団をどのような存在にしたいですか。

 「社会活動を志向する宗教者のモデルとなるような仕組みをつくりたい。税制優遇のある公益財団法人の認定を視野に活動する。現在は公益財団法人公益事業支援協会の協力を得て、公益財団法人トヨタ財団から助成を受けている。国や自治体、企業とは異なる、持続可能で未来に希望を持てる財団を目指す」

(画像4アイキャッチ兼用:「自分と他人どちらか一方だけでは幸せになれない」と語る大河内秀人住職)
「自分と他人どちらか一方だけでは幸せになれない」と語る大河内秀人住職

 大河内秀人(おおこうち・ひでひと)1957(昭和32)年東京都生まれ。浄土宗寿光院、見樹院住職。慶應義塾大学法学部、大正大学仏教学部卒業。カンボジア難民支援を契機に多くの社会活動に従事。原子力行政を問い直す宗教者の会および宗教者核燃裁判原告団事務局、パレスチナ子どものキャンペーン代表理事。

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