2025年10月31日 | 2025年11月1日更新
札幌市内で「障がい者のための夢語り会」を主宰する住吉由紀さん(37)は、自身も発達障害と聴覚情報処理障害があり、現在は就労継続支援A型作業所「畑とキッチン」で働いている。農作業や接客などの仕事にやりがいを感じつつ、障害者が自由な発想で、自分の夢を語れる環境をつくることが夢なのだという。住吉さんの開く場は、どんな役割を果たしているのか。(飯塚まりな)
開催場所は、札幌市生涯学習総合センター「ちえりあ」(札幌市西区)。2023年12月から月1回、近隣の障害者や医療・福祉従事者を中心に、活気ある場づくりが行われてきた。現在は住吉さんの仕事が多忙のため、活動はいったん休止。近く再開予定という。

「障がい者のための夢語り会」は、毎回10人前後の参加者が顔を合わせ、互いの夢を発表する。
夢は、決して大きくなくていい。「パソコンが欲しい」という今すぐかなえたい希望や、「将来、一緒にいてくれる人が欲しい」「音楽スタジオを作りたい」など、自然に思い浮かぶことを、まず「夢語りカード」に書いてみる。
主宰するのは住吉さんだが、進行役は以前、福祉仏教for believeで紹介した鈴木健士さんだ。
時におどけた表情で場を和ませ、明るく軽快に話す鈴木さんは、参加者の気持ちをくみ取り、時間内に全員が気持ちよく語れるように全体をまとめている。
鈴木さんはかつて住吉さんが働く事業所に通所していた。ある日、住吉さんが「障害者が夢を語れる場所を作れたら」と話した一言で、鈴木さんは「いいね、やってみよう」と後押しした。
「鈴木さんのおかげで私の夢もかないました。いつか自分で進行できたらいいのですが、人の気持ちを引き出すことが難しそう」と住吉さんは語る。

住吉さんの担当相談員も、とても喜んだ。「呼んであげたい人がいる」と、「夢語り会」に利用者を連れてやってくることもあった。この利用者は執筆活動にいそしんでおり、これまでに文章を書きためた何冊ものノートを抱えて参加した。
話を聞くと、この利用者は書いた作品をいつか本にしたい気持ちがあると打ち明けた。それを聞いた他の参加者たちは「本気なら手伝うよ」「ノートの文字をパソコンで打とうか」と、親身になって申し出た。
自分から発表して夢を伝えることや、互いの話を聞くことで新たな視点や気付きが得られる。住吉さん自身も、普段接しない人たちと知り合うことで、さまざまな障害や疾患、症状があることを理解できたという。
住吉さんは1988(昭和63)年6月生まれ。幼少期から人見知りで、部屋の隅っこで過ごすような子ども時代を送った。思いを言葉にすることが難しく、成長するにつれて友達との会話や授業の内容が分からなくなり、聞き取ることに困難が生じた。
絵や文章を書くことが好きで、体育は苦手だった。特にチームで行う競技は足手まといになると感じることもあった。

中学生になると精神科を受診。薬を処方されるが原因がはっきりせず、悶々(もんもん)とした。勉強する際は、参考書や本など文字で情報や知識を入れる方が理解できた。
大学ではプログラミングを学んだが、就職先の縫製工場で「作業が遅い」「ミスが多い」などと厳しく叱責されたり、工場自体の経営悪化があったりして、10年ほどで退職を余儀なくされた。精神的にも限界になり、うつ状態で過ごすようになった。
これまで知能指数(IQ)に問題がなかったことから、診断を受けてこなかったが、人並みに仕事ができない自分の失敗談を医師に話すと、発達障害だと言われた。その後は福祉制度を使い、就労支援A型事業所で働くことになって、現在に至る。
一緒に暮らす母親には、経済的に負担をかけていることが申し訳ないのだという。
鈴木さんとの出会いは、住吉さんの環境を大きく変化させた。鈴木さん自身は突然の事故で障害を負ったが、知り合いや仲間が多く、住吉さんは鈴木さんが主宰する日本酒の会や異業種交流会などに呼ばれると、積極的に顔を出すようにしている。
また、自宅近くの洋菓子店の店長が住吉さんの活動を応援してくれるようになり、「夢語り会」を会員制交流サイト(SNS)で広報してくれたり、開催時に差し入れしてもらったりと、協力してくれている。

今後、どのような思いで「夢語り会」を続けたいのか。住吉さんは笑顔でこう語った。
「今でも日々大変なことがあります。ですが、諦めない気持ちを大切にし、私の活動が誰かのきっかけになり、同じ境遇の方に希望を届けられたらうれしいです」
障害のある人の多くは、成功体験が健常者より少ない傾向にある。支援や教育の場で制約を受けることが多く、新しい経験を積むことが限られている場合もある。自分の夢を持っても、語る機会に恵まれないことが少なくない。
そんな中、住吉さんは、誰をも平等に受け入れている。「夢語り会」は、前向きな気持ちで参加できる温かい場として、多くの人に喜ばれている。そして小さな一歩を踏み出す機会を与えてくれる、大切な場になっている。