検索ページへ 検索ページへ
メニュー
メニュー
TOP > 橋渡しインタビュー > お寺に「福祉マンション」を 大西勝己会長

インタビュー

橋渡しインタビュー

お寺に「福祉マンション」を 大西勝己会長

2023年9月16日

※文化時報2023年7月28日号の掲載記事です。

 「お寺の敷地を活用し、『福祉マンション』を整備しませんか」。不動産企画開発を手掛けるアース・ホールディングス株式会社(大阪市中央区)の大西勝己会長が、そう呼び掛けている。「福祉マンション」は、生活に困窮する高齢者向け集合住宅で、訪問看護と訪問介護のサービスも提供。建築したマンションを同社が借り上げるという。大西会長は「身寄りがなく、生活に困窮する高齢者の受け皿となることは、お寺の新しい役割になるはず」と話している。(大橋学修)

普通の収益物件から

 《大西会長は、個人創業の大西企画を前身に、1991(平成3)年4月に株式会社近畿管財を設立。2015(平成27)年に商号をアース・ホールディングス株式会社に変えた。大規模開発を主たる事業とする一方で、福祉マンションなどを運営する》

お寺に「福祉マンション」の整備を呼び掛ける大西勝己会長(右)
お寺に「福祉マンション」の整備を呼び掛ける大西勝己会長(右)

――福祉マンションの運営を始めたきっかけは何ですか。

 「弊社の本業は、大規模開発。長期にわたる事業のため、収益が出るまでに時間がかかる。運転資金を調達するため、収益物件を運営しようと考えた」

 「福祉マンションとして運営している『シーズン美善』(大阪市西成区)は、最初は普通のマンションにするつもりだった。ところが経営を始めてみると、入居するのは生活保護を受ける70歳前後の高齢者が中心だった。役所に付いてきてほしいと頼まれるなど、生活上の問題が山ほど出てくる上、看護や介護が必要な人が半数を占めた」

――出鼻をくじかれた形ですね。

 「とてもじゃないが、管理人1人で事足りる状況ではなかった。最初は福祉事業に取り組む知人に任せたが、問題が発生すると、責任の所在はオーナーになってしまう。それならば、自社で看護も介護もやってしまおうと考えた。利用者もその方が安心できる」

 《「シーズン美善」は鉄骨6階建て。3畳ほどのワンルームが130室ある。風呂やトイレは共同。看護と介護の事務所も入居している。家賃は月額4万2300円。希望に応じて、給食事業も行う》

――どうやって看護や介護を始めたのですか。

 「社員に介護職員初任者研修(ヘルパー2級)を受けさせ、介護事業所としての認定を受けて、人材の確保に努めた」

 「ところが、想定を超える忙しさでマンパワーが不足し、3棟あった物件のうち2棟を売却して『シーズン美善』の運営に専念した。その後安定してきたため、大阪市東住吉区の物件を購入したり、新築物件を借り上げる形での運営を行ったりするようになった」

――福祉マンション特有の課題はありますか。

 「入居者の約半数に認知症の症状がある。施設に入るには要介護度が足りないが、身寄りがなく、収入もないので行き場がない。制度のはざまを埋める中間的な施設になっている」

 「福祉事業は本来、民間が行うものではないと考えている。こんなことになるのは国が面倒を見ないからだ」

ライブハウスと同居

 《西成の聖地とも呼ばれるライブハウス「西成 難波屋」と一体になった福祉マンションの運営も手掛ける。騒音に対する周辺住民からのクレームを巡って相談を受けたことがきっかけだった》

ライブハウスと一体になった福祉マンション
ライブハウスと一体になった福祉マンション

――ライブハウスと福祉マンションの一体化は異色です。

 「経営者から『クレームへの対応に困っているが、改築する資金がない』と言われた。それで、1階にライブハウスを置き、2~5階を福祉マンションにする建物に建て替えた。マンションの収益を、金融機関から調達した資金の返済に充てている」

――金融機関から融資を受けるのは難しくないですか。

 「家賃収入と介護サービスで確保できる月額約80万円が返済の原資で、融資先はライブハウスの経営者。金融機関は当初難色を示したが、弊社が借り上げ保証を行うことで納得した」

 「融資を得るためには、安定して運営できることと、運営母体の経済的な信用が必要。弊社には、実績があるからこそ、融資が可能になった」

――マンションの内部はどうなっていますか。

 「どの部屋にもトイレがあり、シャワールームのある部屋もある。共同利用する大浴場や小さいながらも談話室を設けている。看護チームの事務所は、将来的にクリニックが開けるようなしつらえにした」

「シーズン美善」の共同浴場には、介助設備が用意されている
「シーズン美善」の共同浴場には、介助設備が用意されている

寺院での計画も進行

 《大阪市内の真宗大谷派の寺院でも、福祉マンションの建設を計画している。門徒の了承が得られ、融資を受ける下準備も整った。難波別院(南御堂)の関係者からも期待する声があるといい、別の寺院で建設する構想もある》

――お寺に福祉マンションを設けることにした着想はどこから来たのですか。

 「『お寺を建て替えたいが、資金調達が難しい』と相談されたのがきっかけだった」

 「現在の本堂と庫裏を解体し、新たに本堂を建設。別棟として福祉マンションを建て、最上階を寺族の住居にする。寺族の生活環境が整えば、計画がスタートできるところまでこぎ着けた」

――建設の前提条件は。

 「お寺の立地条件による。100坪(約330平方メートル)程度の土地があり、容積率が400%あれば可能。1棟当たり50室が目安になる」

 「金融機関は宗教法人に融資しにくいので、運営母体となる会社を設立することも必要だ。弊社が借り上げ保証を行い、運営を一手に引き受けることで、融資の条件が整う」

――西成区のように、生活保護を受ける人が多い地域だから可能になるモデルなのではないですか。

 「一概には言えないが、サービス付き高齢者向け住宅の建設も需要がある。お寺の立地条件に応じて考えれば良いと思う」

――マンション建設によるお寺のメリットは。

 「堂宇の建て替えなどお寺の抱える課題を解決しながら、社会に貢献できる。檀信徒の理解が得られやすく、負担軽減にもつながる。檀信徒も入居できるので、安心感を高めることになる」

 「お寺に高齢者向けの集合住宅を設けることが一般的になれば、高齢者問題が一気に解決できると感じている。お寺による社会貢献の一環として、福祉マンションの整備を検討してもらえるとうれしい」

 

 

おすすめ記事

error: コンテンツは保護されています