2023年10月9日 | 2023年10月10日更新
皆さんは、「お遍路」をしたことはありますか。一般的にお遍路と呼ばれるのは四国八十八ヶ所霊場の札所となっているお寺を歩いて巡り、自らの煩悩をはらい清めることを目的にしています。真言宗の開祖であり、平安時代に多彩な活躍をした弘法大師空海が始めました。
四国遍路を行う時の正装には白衣(はくえ)や輪袈裟(わげさ)などが欠かせませんが、今回注目するのは菅笠(すげがさ)です。頂点がとがっていて山のような形をしていることが多く、印象深い見た目の笠ですが、笠に書かれた文字についてはご存じでしょうか。
まずは梵字(ぼんじ)の「ユ」。笠をかぶるときはこの字が前に来るようにする決まりがあります。弥勒菩薩を表す文字ですが、その化身だとされている弘法大師のことも示しています。
他には五つの言葉が書かれています。一つ目は「迷故三界城」。欲や煩悩など、迷妄がある故に三界(衆生が住む欲界、それよりも上の色界、さらに上の無色界)は城のようであるのだ、と教えてくれています。
二つ目は「悟故十方空」。現在は三界の中にいるが、悟るが故に十方(あらゆる方向)が広々として何にもとらわれない空であることを理解できるのだ、と弘法大師は考えています。
三つ目は「本来無東西」。どちらがどの方角で、それをどのように呼び表すかは人間が勝手に決めたものであり、本来は東も西もありません。つまり、この世界の常識や規則などに縛られる必要はないのだといいます。
四つ目は「何処有南北」。南北についても同じです。一体どこに「南」「北」というものがあるのか、と呼び掛け、煩悩などにとらわれず物事を自由に考えることを伝えています。
そして最後に「同行二人」。お遍路では、巡礼の開始からお大師様が同行し、守っていただいているという考えがあるそうです。たとえ一人で歩いていても、常にお大師様がそばにおられるという意味で、自分と弘法大師を合わせて「同行二人」と記しているのです。
同行二人はお遍路だけではなく、自分の身近な人も「いつもそばにいてくれている」と思わせてくれる言葉です。苦しい時や一人だと感じる時でも、必ず誰かと共にいることを想像すると、少しは気が楽になるかもしれません。