2025年3月10日 | 2025年3月11日更新
※文化時報2024年10月1日号の掲載記事です。
供養業者が主体となってつくる一般社団法人「PRAY for (ONE)」は、利他の祈りの大切さを広める活動を展開している。商売を抜きにして取り組む事業者団体は珍しく、協賛する企業・団体などは185法人に上り、イベントなどで折り紙で作った「祈り鶴」に、大切な人へのメッセージを書いてもらっている。保志康徳代表理事は「利他の祈りは目には見えないが、供養と同じで行為自体に意味がある」と話す。
保志代表理事は、仏壇・仏具の製造・販売を手掛けるアルテマイスター株式会社保志の社長。2015(平成27)年3月に「PRAY for (ONE)」を設立した。理事には全日本宗教用具協同組合、全日本葬儀業協同組合連合会、日本石材産業協会、東京都仏教連合会の4団体の代表が名を連ねる。
設立意図について、保志代表理事は次のように話す。
「供養は故人の冥福を祈ることだが、誰かのために祈ることは結果的に自分にも返ってくる。日本は内面的な豊かさを増していかなければならない時代に入っており、供養だけでなく、大切な人の幸せなどを願う利他の祈りを広めたい」
祈りは目に見えない。そこで、折り鶴を「祈り鶴」と命名し、そこに大切な人へのメッセージを書いてもらうことにしたという。
「PRAY for (ONE)」の基本活動は、季刊誌の発行と、協賛法人を募って「祈り鶴」を普及させることだ。
季刊誌では、祈りに関わるさまざまな団体や人物を紹介。「祈り鶴」は、協賛法人が行うイベントなどで使ってもらっている。
例えば葬儀社だと、故人へのメッセージを書いた「祈り鶴」を納棺時に棺(ひつぎ)に入れたり、会館オープンなどの際に活用してもらったりしている。
協賛法人の条件は、年間1万円以上の寄付を行うこと。供養業者を中心に185法人が協賛しており、宗教法人やマスメディアも含まれている。保志代表理事は「趣旨には皆さんから賛同いただけるが、協賛して実際に活動する法人は少ない」と話す。
協賛を呼び掛けると必ずと言っていいほど「メリットは何か」と聞かれるという。これに対し保志代表理事は「商売上のメリットはありません。利他の祈りは目に見えるものではなく、陰徳です」と答えているそうだ。
「PRAY for (ONE)」は他にも、3月27日を「祈りの日」と銘打って、祈りに関係する企業・団体などとイベントを開催。天武天皇が「国ごとに仏舎を作って仏像、経典をお祈りせよ」との詔を出した日に由来する「仏壇の日」に合わせた。
活動の効果・成果として、保志代表理事は次のような事例を挙げる。
一般社団法人設立のキックオフイベントを京都・清水寺で行った時、病気のため日ごろは遠出ができないという女性が「どうしても参加したい」と、わざわざ広島から親に連れられて参加した。
2021年の東京オリンピック・パラリンピックでは、選手村の宿舎に「プレイヤールーム」(祈りの部屋)と宗教センターを設置してほしいというオファーが小池百合子東京都知事からあったという。コロナ禍で宗教センターは設けられなかったが、プレイヤールームについては花などをたくさん協賛し、装飾をボランティアで行った。
「PRAY for (ONE)」の活動を約9年間続けてきた感想について、保志代表理事はこう語った。
「利他の祈りは目に見えるものではないので、他の人には分からないし、商売が繁盛するわけでもない。しかし、行った人にはその良さが分かる。私自身も活動しているとすがすがしい気持ちになる。供養と同じように行為自体に意味があるので、ぜひ行ってもらいたい」
筆者は、利他の祈りの大切さを広める活動は、お寺が積極的に行ってもよいことだと思う。
しかし、東京都仏教連合会が理事に名を連ねているものの、公開されている協賛法人名をみると、個別の寺院は少ない。その理由について、保志代表理事は次のようなエピソードを紹介した。
地方のある仏教会に呼ばれて、「PRAY for (ONE)」の活動について話をし、参加者全員で「祈り鶴」を書いて祈った。その後の懇親会では、お寺も大変だという愚痴が多く、後日、協賛してくれたのは2カ寺だけだった。
筆者は、葬儀社などの供養業者を取材することが多いが、お寺に対するこうした苦言は珍しくない。特にコロナ禍以降、「本来の役割を果たしていないお寺が多い」という声が増えていると実感している。