2025年3月18日
※文化時報2025年1月14日号の掲載記事です。
外国人の存在が当たり前となった地域社会で、異なる文化や宗教への理解を深めようと、兵庫県尼崎市の浄土真宗本願寺派西正寺(中平了悟住職)は、参加型のトークイベント「テラハ」に宗教社会学者で相愛大学客員教授の三木英(ひずる)氏を招いた。講演後には参加者十数人が感想を語り合い、共生について考えた。(坂本由理)
三木氏は日本在住の外国出身者(ニューカマー)の宗教や信仰を長年にわたって研究しており、昨年11月には著書『国際理解には宗教がほぼ半分―外国ルーツの隣人を知るために』(法藏館)を出版。中平住職が相愛大学非常勤講師を務めている縁で登壇した。
イベントは12月14日に西正寺本堂で開催された。まず三木氏が「『異教の隣人』ってなに?」と題して講演。三木氏は日本に住む外国人が1960年の約60万人と比べて5倍以上の341万人に上っているとのデータを示しつつ、外国の文化を理解する必要性を強調し、中でも宗教理解が圧倒的に不足していると指摘した。
その上で、他者理解が進んでいる事例として、岐阜県大垣市を紹介。自動車をはじめとする製造業が盛んで外国人の割合が4.1%と比較的高いといい、アンケートでは外国人の半数近くが地域で差別されたと感じた経験があるものの、約9割が「日本は住みやすい」と回答していたと説明した。
後半は、国内にある世界のさまざまな宗教施設をスライドで示し、施設で行われている行事や提供される食事を紹介。「宗教施設を訪問するのは気軽にできる異文化体験。ぜひ遊びに行ってみてほしい」と結んだ。
第2部では、参加者らが輪になって感想を述べ合った。「ニューカマーの宗教施設があることは知っていたが、怖くて足が向かなかった。知らないから怖いのだと分かった」「食文化などは知る機会があるが、埋葬という人間の根源的な部分を深く考えたことがなかった」など、さまざまな意見が出された。
「同じイスラム教徒でも、過激なグループも穏やかなグループもあると知った」との感想に、中平住職は在日コリアンの友人の例を挙げ、外国人や宗教をひとくくりにせず個別に知ることの大切さを語った。
「テラハ」は「テラから始まるこれからのハナシ」の略称で、地域や社会課題について考える場を持ちたいと、中平住職が2016(平成28)年から不定期に開催している。浄土真宗本願寺派総合研究所に勤務していた際、多くの学びに触れる中で「この学びを多くの人に共有したい」と感じて企画した。
これまで開催したテーマは性的少数者=用語解説=や自殺、貧困、近くで起きた05年のJR福知山線脱線事故など多岐にわたり、毎回20人ほどが集まるという。「テラハをきっかけに参加者同士がご縁を結んでほしいし、たくさんのアンテナを持ってほしい。そうすれば、地域のどこかで問題が起こったとき、気付くことができる」と、活動の意義を語る。
ほぼ毎回参加しているという男性は「身近な問題について学べる場があるのはありがたい。お寺や新しい人とご縁を結べる機会になる」と語った。この男性は寂しさを感じるときにも西正寺を訪れるといい、「子どもの頃から通っているから気楽だし、住職も話しやすい方。孤独や問題を抱えている人々の癒やしの場として、お寺は大切な場所だと思う」と話していた。
【用語解説】性的少数者
性的指向や性自認のありようが、多数派とは異なる人々。このうちレズビアン(女性の同性愛者)、ゲイ(男性の同性愛者)、バイセクシュアル(両性愛者)、トランスジェンダー(身体の性に違和感を持つ人)の英語の頭文字を取ったのがLGBTで、クエスチョニング(探している人)を加えてLGBTQと呼ばれることがある。