2025年3月26日 | 2025年3月27日更新
※文化時報2025年2月7日号の掲載記事です。
トランプ米大統領が1月20日に就任した。2期目の今回は8年前よりも「米国第一主義」を鮮明にし、初日から大量の大統領令に署名するなど極端な言動が目立っている。日本の宗教界も注視しなければならない。
トランプ氏はキリスト教福音派の熱烈な支持を得ているといわれるが、就任式では右手を挙げて宣誓するとき、歴代大統領の慣例に倣わず、左手を聖書の上に置かなかった。前回は慣例通りに振る舞っていたこともあり、単純ミスとの指摘や信心を疑う見方など、さまざまな臆測を呼んでいる。
翌21日、就任行事としてワシントン大聖堂(米国聖公会ワシントン教区主教座聖堂)へ礼拝に訪れた際には、性的少数者=用語解説=や不法移民への強硬姿勢について、主教から「おびえる人々に慈悲の心を持ってほしい」と諭された。これに対し、自身の会員制交流サイト(SNS)で「彼女は不謹慎なやり方で教会を政治に巻き込んだ」「国民に謝罪する義務がある」などと反論した。
宗教儀礼や宗教者にこのような態度を示す人物が、世界に冠たる大国のトップになったことを、宗教界は憂えるべきである。
20日の就任演説でトランプ氏は、昨年7月にペンシルベニア州で演説中に銃撃された暗殺未遂事件に言及し、こう述べた。
「私の命が救われたのには理由がある。私は米国を再び偉大にするために神に救われた」
米国政治を専門とする日本の学者の中には「『神に救われた偉大な大統領』だと宣言したからには、一部の支持層だけでなく、米国全体のために働くと決意しているはずだ」と評する人もいた。
だが、このような楽観的な見立てには、首をかしげざるを得ない。トランプ氏の信じる「神」とは、一体どのような存在なのか。異教徒の人々が大切にしている「大いなるもの」を受け入れられるのか、それとも十字軍や異端審問のように前近代的な排斥を辞さないのか。トランプ氏の宗教観を見誤れば、警戒を怠ることにもなりかねない。
バイデン前政権の方針を次々と覆しているトランプ政権は、多様性を重視していない。このことは、日本の宗教者たちにとっても到底受け入れられないはずだ。
宗教間対話による平和構築をリードしてきた日本の宗教界には、各国の宗教界と連帯し、国際社会に多様性の大切さを粘り強く説く役割が求められる。トランプ政権への提言を視野に、日本政府に懸念を伝える必要もあるかもしれない。
最も避けるべきは、沈黙である。ワシントン大聖堂の主教を見習ってほしい。
【用語解説】性的少数者
性的指向や性自認のありようが、多数派とは異なる人々。このうちレズビアン(女性の同性愛者)、ゲイ(男性の同性愛者)、バイセクシュアル(両性愛者)、トランスジェンダー(身体の性に違和感を持つ人)の英語の頭文字を取ったのがLGBTで、クエスチョニング(探している人)を加えてLGBTQと呼ばれることがある。