2025年3月29日
※文化時報2025年1月31日号の掲載記事です。
佛教大学保健医療技術学部の濱吉美穂准教授がつくったエンディングノート『わたしのいきかた手帳』が、公益財団法人日本デザイン振興会(内藤廣会長)の2024年度グッドデザイン賞を受賞した。アドバンス・ケア・プランニング(ACP)=用語解説=を進める上で、自分の思いを大切な人に伝えやすくする工夫が評価された。(大橋学修)
『わたしのいきかた手帳』は緑色の表紙が特徴で、全16ページ。大きさは縦21センチ、横15センチのものと、一般的な「お薬手帳」と同じサイズのものがある。大切な手帳として手元に置き、一緒に持ち歩きたいと思えるデザインになっている。
内容は6章で構成。このうち「治療や介護で尊重してほしいこと」の章には、「人工呼吸器はつけてほしくない」などの設問に「とてもそう思う」「そう思う」「よくわからない」「あまり思わない」「まったく思わない」の5段階から選ぶ。すぐに何かを決定しなくても、あいまいな感情や気持ちのままで表現してもらうことを目指した。
6章とは別に「わたしの気持ちの変化」と題した章を立て、記入済みの設問の内容を書き換えられるようになっている。
この章をめくると、気持ちの変化が分かるようになっている。
グッドデザイン賞の受賞は昨年10月16日に決まり、審査委員は「利用者が最後まで自分の人生を全うすることを後押しするという視点でつくられている」と指摘。「決め切らなくてもよいというデザインは、豊かな感情の揺れや思いを伝え、対話を生み出す」と評価した。
濱吉准教授は、普段から死を意識して生きることが、生を輝かせると考えている。また、治療方針を事前に話し合っていなければ、救急搬送された際に家族でも悩み、いさかいを招く場合があると懸念する。
濱吉准教授がACPの大切さに気付いたのは、祖母の入院が契機だった。胃ろうが必要とされたが、認知症だったため意思表示できず、元気だったころの祖母の気持ちを推し量り、自然な流れで看取(みと)ることを決めた。ただ、その選択が正しかったのかという迷いはあったという。
逡巡(しゅんじゅん)から解放されたのは、遺品整理の際に見付けた祖母の遺書。「延命治療はいかなる場合もやめてほしい」と書かれていた。ただ、祖母が一人で書いた心境を考えると、「なぜ元気なうちに話をしておかなかったのか」と後悔した。
エンディングノートの開発はACPの普及を目的に進め、現在の形にするまで6年かかったという。
濱吉准教授は「大切なものや願いは、人それぞれ違う。その人自身の生き方に沿って行われるべきだ」と話す。
濱吉准教授は、ACPを進めるに当たっては「当事者の心に寄り添いながら、死生観の醸成を手伝う僧侶の存在が大切だ」と考えており、大学では実際に浄土宗僧侶と連携した授業も行っている。
医療・介護現場で宗教者の姿をあまり見かけないことを残念に思っている。「僧侶にはもっと踏み込んでほしいし、動いてほしい。すでに動いている僧侶には、その姿を見せることで大切さを伝えてほしい」と話す。
【用語解説】アドバンス・ケア・プランニング(ACP)
主に終末期医療において希望する治療やケアを受けるために、本人と家族、医療従事者らが事前に話し合って方針を共有すること。過度な延命治療を疑問視する声から考案された。「人生会議」の愛称で知られる。