検索ページへ 検索ページへ
メニュー
メニュー
TOP > 福祉仏教ピックアップ > 『文化時報』掲載記事 > 子どものグリーフケア 僧侶と当事者が寄り添う

つながる

福祉仏教ピックアップ

子どものグリーフケア 僧侶と当事者が寄り添う

2025年10月12日

※文化時報2025年7月25日号の掲載記事です。

 大切な人を亡くした子どもたちの悲しみを癒やす場を提供する一般社団法人The Egg Tree House(エッグツリーハウス、東京都練馬区)は、浄土宗蓮宝寺(同府中市)の小川有閑住職(47)が代表理事を務めている。グリーフ(悲嘆)の深さはそれぞれ異なるが、人は皆、立ち直る力を持つ。僧侶と当事者たちは「アート」「食べる」「四季を楽しむ」などをテーマに、言語化できない子どもたちの心の解放を目指している。(山根陽一)

 6月28、29の両日、東京都小金井市の真言宗豊山派真蔵院(孤島法夫住職)で、エッグツリーハウスが主催するファシリテーター養成講座が行われた。子どものグリーフケアに関心を持つ幅広い世代が対象で、臨床心理士など心理系の専門職を目指す上智大学や、北里大学の大学院生、自死遺族の当事者など14人が集まった。

(画像アイキャッチ兼用:ファシリテーター養成講座。ロールプレーや話し合いを行う=6月29日、東京都小金井市の真言宗豊山派真蔵院)
ファシリテーター養成講座。ロールプレーや話し合いを行う=6月29日、東京都小金井市の真言宗豊山派真蔵院

 子どもの喪失体験から生まれる悲しみは自然な反応で、その心持ちをあるがままに受け入れる。講座ではこうした理念を元に、話し合いやロールプレーを行いながらファシリテーターを養成。さまざまなプログラムを支えるスキルや知識を身に付ける。

 プログラムは5~18歳の子どもや家族を対象とする「たまごの時間」、中学生以上の自死遺族を対象とする「そっとたまご」などがあり、月1~2回を目安に開催している。子どもたちは遊び、大人たちは語り合う空間になっている。

アートが意識下を表出

 ファシリテーターの一人、佐藤智子さん(39)は10年前に母親を自死で亡くした。自身が癒やしを求めて参加するうちに同じ境遇の子どもたちと向き合う立場になり、月に1度は活動に参加する。

(画像2:佐藤智子さん)
佐藤智子さん

 子どもたちは自己紹介の中で死別体験を語り始める。共感を覚えると、少しずつ心が開かれていくそうだ。話し終えた後に目が輝く子どももいるという。

 だが、上手に話せない子もいて、自分をコントロールできず周囲に当たり散らすケースもある。「そんなときは、絵や粘土などで言葉にできない意識下にある何かを表現することができる」と、佐藤さんはアートの有効性を指摘する。自身でつくった粘土の作品を踏みつけることによって「僕はいい子じゃないよ」とアピールする子もいるという。

 「子どもたちの言葉や創作物を決して評価しない。ただ、受け入れる。聞いているだけでいい」。小川住職も「傾聴と同じ。聞いてくれる人がいるという安心感が心を和らげる」と同意する。

(画像3:小川有閑住職)
小川有閑住職

 子どもたちは他にも寺院の隣にある自然豊かな公園で植物や昆虫に触れたり、おやつを作って食べたり、夏にはキャンプ、秋にはバーベキュー、冬にはそり遊びやスキーを楽しむ。共に過ごすことで、心がほぐれていく。

5歳で亡くなった少女

 エッグツリーハウスは2014(平成26)年、臨床心理士の故西尾温文氏が設立した。西尾氏は1998(平成10)年、当時5歳だった次女の百珠(ももみ)さんをがんで失った。遺族ケアの必要性を感じ、51歳で臨床心理士の資格を取って活動を始めた。

 モデルにしたのが、米国オレゴン州の「ダギーセンター」。親しい人を失った子どもたちや家族のグリーフケアに当たる先進的な施設として知られている。

 小川住職も自死遺族のケアを学ぶために同地で研修を受けている間に西尾氏らと出会い、設立に協力。21年に西尾氏が急逝した後は代表理事に就任した。グリーフ・カウンセラーの坂元達也氏、ファシリテーターの宮下恵子氏らと共に、西尾氏の遺志を継いで活動に尽力。真蔵院の孤島住職もファシリテーターとして活動している。

(画像4:真蔵院で開かれる「たまごの時間」(エッグツリーハウス提供、画像を一部処理しています))
真蔵院で開かれる「たまごの時間」(エッグツリーハウス提供、画像を一部処理しています)

 エッグツリーハウスという名称は、5歳の百珠さんががん性腹膜炎で膨れた自身のおなかを見て「たまごの木」として絵を描いたことに由来する。西尾氏は生前、「たまごが自分の命を支えてくれているという娘の思いをくんで名付けた」と語っていたという。

(画像5:「エッグツリーハウス」の名称の由来となった、百珠さんが描いた「たまごの木」)
「エッグツリーハウス」の名称の由来となった、百珠さんが描いた「たまごの木」

 一般社団法人「自殺予防と自死遺族支援・調査研究研修センター」(東京都江戸川区)の理事も務める小川住職は「大切な人を失う悲しみは、身をもがれるような痛み。寺院の社会活動を支援する浄土宗ともいき財団の援助を得ながら、近隣の小学校にもチラシを配布するなど、地道で息の長い活動を続けたい」と話した。

おすすめ記事

error: コンテンツは保護されています