2026年1月6日
※文化時報2025年11月7日号の掲載記事です。
福井県越前市の真宗出雲路派長慶寺で10月25日、地元の商店主らによる「武生(たけふ)まちゼミ」のワークショップが開かれ、前住職で社会福祉士の泰圓澄一法さん(52)が終活講座を行った。参加者らは、余命わずかと宣告されたら何を大切にしたいかを話し合う「もしバナゲーム」(もしバナ)やエンディングノートを使いながら、自分の人生について振り返った。(主筆 小野木康雄)
「生まれたときには、誰もが願いを込めて名前を付けられる。その願い通りに生きている人もそうでない人も、自分がこれからどのような形で名前を残していくか考えてほしい」。ワークショップの冒頭、泰圓澄さんがそう呼びかけた。
参加したのは、地元住民や福祉関係者ら6人。本堂に置かれたテーブルを囲み、ある人は黙々と、ある人は周りの人と語り合いながら、自分の名前への思いを紙につづった。
その上で、今の自分自身を表す「人生の漢字」一字を考えた。「待」という字を選んだ30代男性は、複雑な家庭環境と求職中の身であることを明かし「受け身ではなく、積極的に待機しているという感じ」と話した。
合間には、別のテーブルで1人ずつ、「もしバナ」を用いたアドバンス・ケア・プランニング(ACP)=用語解説=を体験。泰圓澄さんと対話しながら「呼吸が苦しくない」「私の思いを聴いてくれる人がいる」「祈る」などと書かれた35枚のカードを吟味し、もしもの時に大切にしたいことを〝見える化〟した。

80代男性は「これまでは『生きたいだけ生きてやろう』という感覚だったが、最近になって『自分は必ず死ぬ』と確信できた。このような機会に、人生についてしっかり考えたい」と語った。
泰圓澄さんは「ACPは短い時間で考えると後悔や悲しみが大きくなる。考える時間を持てない人のために、これからも場を提供したい」と力を込めた。
「まちゼミ」は、商店街などの店舗で店主が講師となり、プロならではの専門知識や技術を伝える講座のこと。2003(平成15)年に愛知県岡崎市で始まり、商店街活性化の切り札として全国に広がった。

受講料は材料費を除いて無料。店主と受講者がコミュニケーションを取り、店舗に入りやすい雰囲気や信頼関係を築くことを目的としている。小売店や飲食店だけでなく、お寺が参加している例もある。
越前市では14年にスタート。第3セクターの「まちづくり武生」が中心となり、これまでに約70店が参加した。
12回目となった今回は、10月1日~11月9日の40日間に45講座が開かれる。同社の山本善典さん(63)は「人と人がつながれば、お客さまとお店として、縁ができる」と話す。
泰圓澄さんは、まちゼミをお寺の活性化の手段としてではなく、弁護士や社会福祉士などの専門職が死後事務を巡る適切な情報を伝える機会とすることを目指している。「僧侶と福祉職という自分の両方の経験を生かしたい」と抱負を語った。
【用語解説】アドバンス・ケア・プランニング(ACP)
主に終末期医療において希望する治療やケアを受けるために、本人と家族、医療従事者らが事前に話し合って方針を共有すること。過度な延命治療を疑問視する声から考案された。「人生会議」の愛称で知られる。