2026年2月15日
※文化時報2025年12月19日号の掲載記事です。
認定NPO法人抱樸(ほうぼく)(奥田知志理事長、北九州市八幡東区)は9日、東京都港区の明治学院大学で講演会「抱樸おんなじいのちのツアー」を開催した。約500人が聴講し、奥田理事長が2026年秋に北九州市小倉北区で開設予定の「希望のまち」について語ったほか、計画に賛同する有識者らとパネルディスカッションを行い、人間の不完全さや人工知能(AI)に関しても話題が及んだ。(山根陽一)

希望のまちは、特定危険指定暴力団工藤会の旧本部事務所跡地(北九州市小倉北区)で抱樸が建設を進めている複合型社会福祉施設。生活支援や救護所、避難所など多くの設備を持つ。居住者は1人部屋が基本で、有名シェフが運営を担うレストランや音楽スタジオなども併設する。
奥田理事長は講演で、1988(昭和63)年から「おにぎり・豚汁・ゆで卵」によるホームレス支援活動を始め、これまでに約3800人の自立をサポートした経緯を語った。当初は「無駄」「無意味」といった声もあったが、成果が出始めると行政の理解も得られたことも明かした。
ホームレスの約4割に知的障害があることに触れ「どんな状況でも人間は変わることができる」と強調。一方で「自立した人と自立できない人に分断が生まれ、変われない人は取り残されてしまう。生きているだけで価値があるという思いを共有できる『希望のまち』を作りたい」と抱負を語った。
講演に続いて奥田理事長を交えたパネルディスカッションが行われ、「希望のまち」計画に賛同する神戸女学院大学名誉教授の内田樹氏、小説家で明治学院大学名誉教授の高橋源一郎氏、哲学者で作家の永井玲衣氏が登壇。それぞれの個性が光り、ジョークを織り交ぜた笑いの絶えないトークショーとなった。

合気道の道場を運営する内田氏は「どうしても意見がかみ合わず他のメンバーを守るためには、破門するケースがある。だが、そういう困った人こそ本当は守るべきかもしれない。『希望のまち』はそれができる場所であってほしい」と話した。
高橋氏はAIがカウンセリングの世界にも進出し、人間の苦悩に答えることができる現状を伝えた上で「本当に優秀なカウンセラーはAIのような完璧な答えを出さない。なぜなら人間は不完全な生き物であり、完全な答えは人間を満足させられないからだ」と話した。また「本当の美とは乱調の中にあり、そうした乱れを物語に高めていくのが抱樸の事業ではないか」と力を込めた。
永井氏はさまざまな場所で哲学対話を行うが「それぞれが脈絡なく好き勝手に話し、調和などしない。みんなが不完全な断片を落としていくだけ」と述べた。その上で「答えを出すことを苦しいと思うのが、人間だ」と強調。哲学者サルトルが「希望の中で死んでいく」と語ったエピソードを引用し「どこかにある希望をたたき起こすことが、今の世の中で求められる」と会場に語りかけた。
奥田理事長はコロナ禍で人間の「臭い」が消えたことに言及。「私たちはコンセントがなくても動くことができる。汗や体臭、その身体性こそが人間たる証しだ」と語った。